一人もいない

バイオテロの鎮圧はプロであっても簡単に命を落とす。

aaaの仲間だった男も、血まみれの死体と成り果てていた。
aaaは強く拳を握りしめ、押し寄せる悲しみと苦しみに堪えた。
「aaa」
ぽん、とaaaの肩を叩いたのは隊長であるクリスだった。
「隊長…」
「大丈夫か?」
「……はい」
aaaが無理して答えると、クリスは察してaaaの頭を撫でた。
「家族を信じろ」
クリスは戦闘でボサボサになったaaaの髪を整えて優しく笑った。
「……、はい」
熱くなった目頭。
ぎゅ、と涙を押さえ込み、aaaはクリスの目を睨むように見て、力強く言った。
「よし、行くぞ!」
用意しろ、とクリスが隊員を集め、aaaはそれに従った。

鎮圧が終わり、今回のメキシコでのバイオテロで亡くなった仲間は一人だけだった。
多い時にはもっとたくさん死んでしまうから、これはまだマシな方なのだ。
――本当は犠牲は一人も出ない方がいいのにマシなんてのは笑える話だけど。
そう考えながら、aaaはホテルの部屋のベッドに体を埋めていた。
北米支部のホームに帰れるのは明日になるだろう。
それまで体を休めていろとの隊長であるクリスからの御達示だった。
きっと明日も帰ったら早々に仕事が舞い込んで来る。
書類作成に、射撃訓練、実践のバイオテロ鎮圧。
特に、今や世界に流出したウィルスによるB.O.W.の調査や駆除が人手不足だから多い。
aaaがあくびをして眠ろうとしていた時、ドアをノックする音が聞こえた。
「はーい」
チェーンと鍵を外し、ドアを開けると、そこにクリスが立っていた。
「aaa、少しいいか?」
「…はあ、どうぞ」
aaaはクリスを部屋に招待した。
クリスは入って、イスに座った。
アルファチーム唯一の女性隊員のaaaは、他の隊員は二人で一つの部屋だったのだが、部屋を一人で使わせてもらっていた。
「みんなで飲もうって話になってるんだが、行くだろ?」
クリスが口を開いた。
「今日は…あまり…」
aaaはベッドの上で体操座りをした。
「気が乗らない…か?」
「…はい」
仲間が死んだ時に酒なんて飲む気になれない。
aaaはクリスに重苦しい雰囲気でそれを伝えた。
「aaa」
クリスがイスから立ち上がり、aaaの隣に腰を下ろした。
「たくさん悲しいことも苦しいこともあるだろう。…だけどな、aaa」
クリスはaaaの手を包んだ。
「死んだ仲間は、一人もいない」
クリスはしっかりとaaaの瞳を捉えていた。
aaaの瞳からは大粒の涙が溢れ、頬を伝った。
「隊長…っ、う、ああぁ…!」
aaaはクリスの胸に顔を埋め、大声で泣いた。
クリスはaaaの体をぎゅっと抱きしめていた。

「隊長、すいません…」
泣き止んだaaaは気まずそうに言った。
「はは、別にいい」
クリスは優しく笑い、aaaの頬を撫でた。
涙のあとがある。
「……aaa、飲みに行くだろ?」
「…はい」
aaaは頷くと、目をごしごしと擦った。
「aaa、あんまり擦ると目が腫れるぞ。…ってもう腫れてるか。目元冷やした方がいいな。ちょっとタオル持ってくる」
クリスはそう言って洗面所に向かうと、備え付けの小さめのタオルを濡らして持ってきてくれた。
「ほら。あと飲み会までには治せよ。俺はちょっと部屋に戻るから…、aaa?」
aaaは目元にタオルを乗せて、部屋に帰ろうとするクリスの手を掴んだ。
「クリス、隊長……ありがとうございます…」
クリスの掌は暖かく、体と同じくらい包容力があった。
「…あぁ」
クリスはaaaの手をぎゅっと握ると、部屋を出て行った。
「隊長…かっこよすぎ…」
aaaはベッドに寝転ぶと、タオルを目元に乗せて眠りに落ちた。

50分後、aaaは部屋から出る時、今日死んだ仲間を思い出した。
クリスの言葉を頭の中でリピートする。
「死んだ仲間は、一人もいない」
フロントにいるピアーズやマルコ、クリスに手を振りながらaaaは笑った。
その中に、彼がいるような気がした。


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