今度は唇に

※aaa:日本人、ピアーズと同い年の26歳

「隊長!…クリス隊長!」
「どうした?」
aaaが声をかければ、優しく笑うクリス。
「あ、あのっ、これ、」
手に握っていた缶コーヒーを渡すと、クリスは少し驚いてから、また優しく笑った。
「ありがとう」
クリスはaaaの肩をトンと叩いて、オフィスに戻って行った。
aaaの想いは伝わっているのだろうか。aaaもオフィスに戻って、一生懸命書類作成に勤しんだ。
BSAAの仕事は実践訓練も含め大変でなおかつ忙しいが、クリスと同じ空間にいられるだけでうれしくて頑張れる。

「よしっ、終わりだ!」
ぐぐ、と伸びをしたマルコが言った。
キートンもほぼ同時に終わったのか、デスクに突っ伏した時に頭を打って「うっ」と低い呻き声を上げていた。
「お疲れ様」
「隊長、お先に失礼しまーす」
「しまーす」
マルコとキートンが同時にドアから出ようとして俺が先だと争っているのを尻目に、ピアーズもやっと仕事を終わらせたようだ。
「はー…、終了。aaaはまだか?終わったら、一緒にメシでも…」
「あ、ごめん。まだだから…、また今度にしていい?」
「わかった。今度な。…頑張れよ」
同い年のピアーズからの食事を断ったaaaはすでに終わっていたのだが、クリスを待っていたのだ。
クリスはいまだ仕事に勤しんでいる。
ピアーズが手を振って帰るのを見送って、aaaはクリスを見ると、クリスもこっちを見ていて、目が合うと、クリスがへらりと笑った。
終わらない、の合図なんだろうか。
どっちにしろ、隊長の笑顔は可愛い、と思いながらaaaは仕事をしているフリを続けた。
その後もアルファチームは二人を除いてぞくぞくと帰って行った。

「…aaa」
「はっ、はい」
少し遠くにあるクリスのデスクから声が聞こえた。
「……終わった、のか?」
「あっはいっ、一応……」
いつ見ていたのかわからないが、aaaの手が止まっていることに気が付いたクリスが聞いた。
「そうか」
「クリス隊長はまだですか?」
「いや、もう終わるから、よかったら待っててくれないか」
クリスがパソコンのキーボードを軽く叩いて言った。
「はっ、はい!」
aaaはクリスが見てもいないのに、何度も大袈裟に頷いた。
「よしっ、終わり!aaa、ご飯まだだろ?食べに行こう!」
勢いよくイスから立ち上がったクリス。
「あ、はいっ!」
待ってましたと言わんばかりに、aaaは快い返事をした。
「腹減っただろ?うまいステーキの店があるんだ」
クリスが言いながら帰る準備をする。
aaaはすでにかばんに荷物を入れていた。
「あの、隊長…」
「ん?」
「ありがとうございます…」
電気を消してオフィスから出るとき、誘ってくれたことが本当にうれしいとaaaはクリスに伝えた。
「…そんなに喜ばれることかな」
はは、と笑いながら、クリスはオフィスの鍵を閉めて、例の店に向かった。
外はもう日が落ちて真っ暗だった。

「aaa…、もう食べないのか?おいしくなかったか?」
クリスが心配するのも無理はない。
頼んだステーキがあと半分残っているのにも関わらず、aaaはダウンしていたのだ。
「おいしいですけど…もう無理…」
ステーキがアメリカンサイズ、つまり大きく、かつ日本人のaaaには多すぎる。
胃はもうぱんぱんに膨らんでいて、もうステーキ一切れも食べられない。
「隊長、いやじゃなかったら食べてくれませんか?残すのも申し訳ないですし…」
「いいのか?」
「どうぞ」
了承を得ると、クリスはaaaのステーキをもぐもぐと食べ出した。
食べてる姿もかっこいい。
「こっちのステーキもうまいなぁ」
ふわり、と笑ったクリスがとても魅力的で、aaaは胸を高鳴らせた。

クリスの車に揺られながら、aaaは家路につく。
まるで恋人同士だ、と思いながらaaaはクリスをちらりと見た。
まっすぐ暗い道をフロントガラス越しに見ているクリス。
大人の色気、魅力が詰まった人だ。
aaaがうっとりとクリスを見つめていると、クリスが口を開いた。
「aaa、な、なんか俺の顔についてるか?」
「あっ、いえ何も!ただ、かっこいいなって思って…」
口を滑らせたと気付いた時には遅かった。
重い空気のまま家への道案内をする。
「そっち左です」
「あぁ…」
クリスの顔を見ても、感情が読み取れない。
こんな子供はありえない、とか思っているんだろうか、つらい。
そんなことを考えていると、自分の家があるアパートに着いた。
「……隊長」
「aaa。俺より……いい男がいると思うぞ」
クリスがaaaの目を見た。
「クリス隊長!…私、いつも隊長のことばっかり考えてしまうんです。…仕事中も休んでるときも……、クリス隊長が、ずっと…」
なぜか泣きそうだった。
フラれたらどうしようとかよりも、想いが伝わらないことが恐ろしかった。
「クリス隊長のことばっかり考えてしまうんです…」
「……aaa」
クリスがaaaの手を握った。
伝わる体温が、クリスの想いのような気がした。
「…ありがとう」
aaaはクリスに抱きしめられた。
筋肉が邪魔なんじゃないかとか、そんな心配は無用だった。
暖かい、想像していたより遥かに気持ち良くて優しい。
「aaa、ありがとう」
クリスはaaaの頬にキスをすると、にっこりと笑った。
「クリス隊長…」
「呼び捨てで構わない」
「クリス…好き」
aaaがクリスの太い首にぎゅっと抱き着くと、クリスは背中をさすってくれた。
今度はうれしくて泣きそうだった。

何分抱きしめあっていたかわからないが、長い時間に思えた。
aaaはクリスに手を振って別れを告げると、アパートの玄関に向かう。
クリスの車が発進した音が聞こえた。
aaaは自然と頬に指を這わせていた。

今度は唇がいいな、と想いにやけるaaaは玄関のドアを開けた。


prev

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -