運命は交差している | ナノ
19

「今日はモデルの仕事だから」
「うん、いってらっしゃい…」
いってらっしゃいのキスをして、玄関で見送った。
九月の秋の風が、少し肌寒く感じられた。

リビングに戻ると、サンジはモデルの仕事に行ってしまったが、ローテーブルの上には彼のスマホが置き去りにされたままだ。
「……どうしよ」
aaaは持って行った方がいいのか。
今日はチョッパーに送ってもらったから、今、外に出てもサンジはもういない。
「………持って行った方がいいよね!」
aaaはサンジのスマホを持つと、家を出た。
確か、今日はイブスタジオであるらしいから、そこに行けばいい。

「…ここ、だよね」
電車で最寄り駅まで行き、少し歩くと、サンジが昨日の夜話していたイブスタジオに着いた。
勝手に入っていいのか悩んだが、スマホを届けなくちゃいけないから、と自動ドアを通った。
「うーん……どこ?」
どこに楽屋があるのかわからずうろうろしていると、スタッフがたくさんいるところが見えて、あそこに楽屋があるんだろうと思い、そこに向かった。
「おい、お前、ここは関係者以外立入禁止だぞ!」
スタッフだろうサングラスをかけた男がaaaの前に立ち塞がった。
「あ、すいません、サンジくんに会いたくて…」
「どうせファンかなんかだろ?ほら、あっち行けって」
もう一人半ズボンで坊主のスタッフが来て、aaaの手を掴んだ。
「あっ、あの…」
どうしよう、とあたふたしていると、後ろから女性の声がした。
「すいません。私の友人なんです」
「あー、dddさんの友人ですか!」
スタッフはなぜかすぐにどいてくれて、aaaとdddと呼ばれた女性を通した。
後ろで「紙一重か…」とかなんとか言っているスタッフ二人を気にせず、aaaは助けてくれた人を見た。
「あ、ありがとうございます……わ、きれい…」
dddの大人しそうな外見は日本女性の理想、大和撫子そのもので、思わず口をついて言葉が出てきてしまった。
「いいえ、困っていたので。…何か用ですか?…もしかして、モデルさんの関係者の方?」
aaaより年上なのに丁寧な喋り方で対応するddd。
「あっ、はい、あの……サンジくんに、スマホ届けたくて…ですね…」
「…そう、わかりました」
dddはaaaと手を取ると、迷わず楽屋に向かった。
時折会うスタッフに親しげに挨拶しているが、この人はモデルなのだろうか。
dddはある部屋の前に立ち止まると、ガチャリとドアを開けた。
「マルコさん、サンジさんって方いませんか?」
「おう!dddじゃねーか!」
dddの呼びかけに、部屋の中にいたフランスパンみたいな髪の男が手を上げた。
その男はよく見ればウェストブルーという雑誌に出ているモデルであり、昔からよくドラマで見るサッチだった。
この部屋は楽屋だったようだ。
「サンジはスタッフに呼ばれたよい。ま、すぐ帰ってくるだろうけど」
次に返事を返したのは、サッチと同じ雑誌のモデルのマルコ。
35歳の落ち着きのある見た目と性格が、老若男女人気のモデルだ。
「かわいーな、君なんて名前イテテテ」
「…その女は誰だよい」
aaaに近付いて怖がらせているサッチの耳を引っ張り、マルコがdddに聞いた。
「サンジくんの彼女…です。aaaって言います…。あの、スマホ、届けに来たんですけど…」
サンジのスマホをかばんから取り出し、本当だと証明してみせた。
「すぐ来るだろーし、ここにいたらいーじゃねーか」
サッチは優しく笑った。
「…そうしたらどうでしょうか」
dddがaaaに微笑み、aaaは何度も頷いた。

dddはaaaにお茶を注ぐと、aaaの目の前のイスに座った。
「私、dddって言います。マルコの妻です」
「えっ、つ、妻…?奥さん、ですか…!?」
aaaが驚くさまを、ふふ、と笑うddd。
「時々、こうやってマルコの仕事場にお邪魔させてもらってます」
だからスタッフと仲良しだったのか、とaaaは無意識に頷きながら、「へぇ」と呟いた。
「おれはマルコ」
「おれァサッチちゃん!!」
にま、とaaaに笑ったサッチ。
「こんにちは…」
「かわいいなァ!サンジにこんな可愛い彼女がいたなんてよーチクショー」
テーブルに突っ伏して、ダンダンとテーブルを叩くサッチ。
「お前はもう駄目だよい」
マルコはそんなサッチを鼻で笑った。
「サッチさんはいい人ですから、すぐ良い女性が現れますよ」
ふふ、と笑うdddはモデルじゃないと思えないくらいきれいな女性だ。
それに加え、丁寧な話し方はより一層大和撫子を連想させる。
「えー!!やっぱり?サッちゃんかっくいーからなー!」
サッチはでれでれと鼻の下を伸ばしている。

「aaaちゃんがいるってほんと!?」

バン、と楽屋のドアが開いて、サンジが姿を現した。
「サンジくん…スマホ、持ってきたよ」
「aaaちゃん!ありがと!」
「ちょ、ちょっと…」
人目も憚らず、サンジはaaaをぎゅっと抱きしめた。
「仲いいんだな」
マルコとdddが微笑ましい様子を見守る中、サッチは恨めしそうに指をくわえていた。
「そりゃあもう、このままゴールインしちゃいますよ!」
aaaからスマホを受け取ったサンジがマルコに言った。
「迷惑になっちゃいけないから帰るね、サンジくん…」
サンジから離れたaaaはdddたちに向かって深くお辞儀をした。
「じゃあ私も帰りますね」
dddがイスから立ち上がった。
「…わかったよい」
「えー、もう帰んの?」
マルコとサッチとサンジに会釈して、aaaに行きましょうと言った。
aaaはdddの後ろに着いていって、イブスタジオから出た。

「あの、dddさん…。聞きたいことがあるんですけど…」
最寄り駅まで向かう二人。
声をかけたのはaaaだった。
「私に答えられることであればなんでも聞いてください」
「……芸能人の恋人って大変ですか!?」
「…そうですね。いろいろと私にもありました。…でもそれを乗り越えてこその恋人ですよ」
ふ、と笑ったdddは、ぽんとaaaの肩を叩いた。
「……はい」
dddさんも苦労したんだなぁ、そう感じながら駅で別れた。



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