運命は交差している | ナノ
12

サンジは家に帰ると、aaaに今日の出来事を話した。
「モデル!サンジくんすごい!で……どうするの?するの?」
aaaが聞くと、サンジは「うーん」と唸った。
「…おれは大好きな料理が出来ればそれでいいんだ」
もらった名刺を見つめて言った。
「サンジくんが決めることだけど、私はチャンスがあるなら挑戦するのもいいと思うよ」
aaaがサンジに微笑みかけると、サンジもつられて笑った。
「そう…かな」
その言葉を言ったきり、サンジも何も言わなくなり、しんとした空気になる。
「あっ、私、洗濯してくる!」
その場の空気に堪えられなかったaaaはぱたぱたと洗面所に向かってしまった。
「挑戦…か…」
名刺を棚にしまい込み、サンジは一週間何事もなく平和に過ごした。

期限ギリギリ一週間の午後五時。
夕焼けがカーテンに入り込むリビングで、サンジは棚にしまった名刺を取り出し、スマートフォンでロビンに電話をかけた。
「サンジです」
「あら……かかってこないかと思ってたわ。決心したのかしら?」
「はい。おれ……やってみたいです、モデル」
サンジははっきりとロビンに聞こえるように言った。
ロビンがスマホ越しに、ふ、と笑ったのが聞こえた気がした。
「本当?嬉しいわ――」
「あの!……おれ、コックは続けていたいんです。料理がおれのすべてなんで…」
aaaが大学から帰ってきて、サンジを遠目に見ていた。
サンジがにっこりと微笑むと、aaaは手を振った。
「…そう。そういう条件で社長に言ってみるわ。今度事務所に来てもらえないかしら?再来週の土曜に。……早いかもしれないけど、モデルが急に休んじゃって雑誌に穴があきそうなのよ。それだけは避けたいの。よろしく頼むわ」
「はい。無理にでも休み作ります」
サンジはそう言って、電話を切った。

「……どうだった?」
aaaが慎重に聞いた。
「再来週の土曜に事務所に来いって」
「へぇ!再来週かぁー…」
「なぁ、aaaちゃん。一人じゃ不安だから、一緒に来てくれねェ?」
サンジはスマホをテーブルに置いて、aaaの手を取った。
「えっ、でも、そんな!……ダメだよ、関係者以外立入禁止だよ、きっと…」
aaaは肩を竦めて言った。
「おれの彼女って言って無理にでも連れていくから。理由もこじつけてさ」
サンジはaaaの指にキスをすると、優しく囁いた。
「乱暴…」
サンジの甘い声が耳を刺激して、ドキドキする。
aaaはほんのり顔を赤くしていた。
「土曜だから大学もねェし!ちゃんと予定空けといてくれよ」
サンジがウィンクした。
「うっ、うん!」
「さ、ご飯作るか。aaaちゃんはのんびりしてていいから」
サンジは可愛い花柄のエプロンをすると、キッチンに向かった。
「あ!ねぇ、サンジくん!……モデルになるって、レストランはどうするの?」
「料理は続けるつもりだ。バラティエのコックも。……コックじゃねェおれなんて、おれじゃねェよ」
にか、と子どものような笑みを浮かべたサンジ。
「そうだね。…私、何か手伝うよ」
aaaもサンジのいるキッチンに走り寄った。

二週間後、サウザンド・サニー事務所の社長室にて。
「スタジオに行く前に契約書を書いてもらうわね」
サンジはロビンにそう言われた。
「はい」
「……」
aaaはロビンにじっと見られながら、サンジがサインを書いている間の沈黙を過ごした。
社長室に通されたのに、そこには社長秘書のロビンしかいなかった。
「はい、どうぞ」
サンジはぺら、と紙を渡した。
「ありがとう。…ところで、こちらの可愛い子は誰かしら?」
ロビンはaaaを見て言った。
「あっ私はっ、aaaって言います!」
「おれの彼女です」
aaaは深々と頭を下げた。
「おれ、一人じゃ不安なんで連れてきました。ダメでしたかね」
「あら、そう。邪魔しないなら大丈夫よ」
ロビンはaaaに優しく笑いかけた。
aaaは美人に微笑まれ、少し照れて目をそらした。

「アウ!そいつがサンジかー?」

後ろから大きな声が聞こえて、aaaの体がびくついた。
aaaとサンジが同時に振り返ると、そこには海パン一丁で青い髪の変なリーゼントの男が立っていた。
「そうよ、社長。隣がサンジの彼女。一日お手伝いさんってところかしら」
ロビンが海パン変態男に言った。
「えっ!ええぇっ!!社長!?」
「しゃっ社長!?この変態がっ!?」
aaaとサンジは同じことを思っていたようだ。
「そうだ、おれが、このサウザンド・サニー事務所のフランキー社長だ!」
変なポーズを決めながら、フランキーが叫ぶ。
「そして私が社長秘書のロビンよ。よろしく。aaaさん、サンジを少し借りるわね」
ロビンが色っぽい大人の笑みを浮かべた。
「は、はい!こき使っちゃって下さいっ!」
「えぇっ!!aaaちゃんそれはねェよ!」
aaaとサンジが話しているのを聞きながら、フランキーは豪華なイスにどかっと座った。
「ここにはサンジみてェなモデルが多くいるが、あいにく今日はみんな仕事だ。紹介は今度な。あ、そういやァ、今日の仕事は――」
フランキーが話している途中に、ガチャと扉が開いた。
「フランキー!そろそろスタジオ行く時間だよなァ……あ?誰だ?」
社長室に入って来たのは、緑頭の男だった。
「え!…ロロノア・ゾロ!ゾロだよサンジくん!!」
aaaはサンジの腕を何回か叩いた。
マジで芸能人いんのか、とサンジも少し驚く。
緑頭の男は、イケメンでスタイルが良いだけでなく、芝居も上手く、テレビや雑誌で引っ張りだこの、モデルで俳優のロロノア・ゾロだった。
「なんだ、このグル眉」
「アァ!?なんか言ったかマリモ!」
サンジが人に怒鳴る姿なんか初めて見た。
aaaは驚きながらじっとナマの芸能人を見ていた。
ゾロもその視線に気が付き、aaaを一瞥する。
「馬が合わないのは勝手だけど……、今日の撮影、二人一緒にやるのよ」
ロビンが胸倉を掴み合うゾロとサンジに説明した。
「はっ!?はあぁー!?」
サンジが不満げな声を上げると、ゾロが「こんなやつと一緒に出来ねェ!」と怒鳴った。
「キャンセルは無しよ」
ロビンは有無を言わさず、ゾロとサンジ、そしてaaaを社長室から出した。
「aaa、二人をよろしくね。タクシーは呼んであるから。スタジオはアダムスタジオよ。いってらっしゃい」
ロビンはaaaに耳打ちをして、社長室に戻っていった。
aaaは睨み合う二人を見ながら、溜息を吐いた。

とりあえず、アダムスタジオに向かおう。


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