08

「スモーカー」
「どうした」
aaaはスモーカーの執務室の半開きのドアの前で、呆然と立っていた。
自分の好きな人が見知らぬ金髪の女と親しくしていたら、しかもキスシーンを見てしまったら、どんな人でも唖然としてしまうだろう。
――aaaが今、そうであった。
大声を出して部屋に、二人の間に乱入してもいいが、aaaにそんな勇気は持ち合わせていなかった。
aaaは泣きそうになるのを堪えながら、自分の執務室に向かった。

「……どういうことだ」
スモーカーは突然のキスに動揺することもなく、そのキスの相手に問うた。
「…キスくらいいいじゃない、昔からの仲でしょ」
金髪の女が髪を梳きながら答えた。
「答えになってねェ」
「……子供に手を出すなんて、ヒナ失望」
ヒナがスモーカーを冷たく見つめながら言った。
「それでaaaの前であんなことしたのか?……くだらねェ」
「くだらないのはどっちかしら。付き合って傷つくのはスモーカー、あなたじゃなくてaaaだわ。……好きな人と重ねるなんて最低よ」
ヒナはスモーカーを見据えたままだ。
「…言われなくても、わかってる」
「本当に?……だったら謝っといてくれる?aaaに。…悪いことしたって」
「謝るくらいなら、もとからするんじゃねェよ」
スモーカーは溜息を吐きながら、ゴツいイスから立ち上がり、ヒナを通りすぎて執務室から出て行った。

(……スモーカーさんって、ほんとは私のこと好きじゃないのかも。私ばっかり好きって言ってるし…)
aaaはフカフカのソファに寝そべりながら、スモーカーについて考えていた。
(あの人…、見たことある気がするけど……スモーカーさんの恋人だったりするのかな…)
鼻筋を伝う涙を拭いもせず、aaaは目をつぶったまま動かない。
(スモーカーさんは…やっぱり…)
「aaa!」
ドンッと扉を叩く音とスモーカーの声が聞こえた。
「てめェ、ここ開けろ!」
スモーカーがドアノブを何度動かしても扉は開かない。
aaaがドアの前に棚やデスクを移動させ、ドアが開かないようにしていたからだ。
「aaa!……チッ」
スモーカーは舌打ちをして、煙になった。
扉の隙間から侵入する。

煙のスモーカーは部屋の中に入り、ソファで横たわるaaaを見つけた。
「…aaa」
「っ!」
aaaが驚いて、体をびくつかせた。
「スモーカーさん……来ないで…!」
aaaはスモーカーを睨みつける。
「aaa、なんか勘違いしてねェか?」
スモーカーはaaaの言うことを聞かず、aaaに歩み寄る。
「来ないで!!……何が?さっきの女の人の話?…キスしといてよくそんなことが言えるね」
aaaは渇いた笑いをした。
「あれは、てめェへの警告だ」
てめェとはスモーカー自身のことだったのだが、それはaaaには通じなかった。
「何それ!!意味わかんない!…たしぎちゃんとも仲良いし、関係持ってるんじゃないの!?」
aaaが怒鳴る。
「どうしてそうなる!たしぎもヒナも、ンな関係持ってねェ!」
「どうしてそう言えるの!」
aaaの瞳から涙が零れた。
「なっ、なんで泣く!」
スモーカーはぎょっとしてaaaの肩を掴もうとすると、aaaがスモーカーの手を払った。
「てめェ、おれのことが信じらんねェのか!」
「わかんないよ!全然……全然スモーカーさんのことなんかわかんないよ!出てって!もうやだ!スモーカーさんと話したくない!」
aaaはそっぽを向くと叫んだ。
スモーカーは眉間のシワを深めながら、仕方なく煙になって部屋から出て行った。

「……キスしたこと認めた時点でもう終わりだよ…」
aaaは涙を拭いながら、窓から飛び出し、家に向かった。
aaaの執務室は一階だった。


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