05

「あの子が泣いてたら慰めて…ね?」
ンなこと言ったって、どうやって慰めりゃいい。

春島に近いのか、気候も波も穏やかで、軍艦がグランドラインを走っていてもカモメの鳴き声しか聞こえない。
向かうべき海軍本部を後に、スモーカーはある島に行くよう指示した。
進行方向と逸れることがなかったため、海兵たちは何も不思議には思わなかった。
海軍の軍艦は島で停泊し、海兵は街で一時的な休息を噛み締めていた。
「あれ?スモーカーさんとaaaさんは?」
たしぎが軍艦内できょろきょろとスモーカーの姿を探す。
「あ、スモーカー大佐はaaa少佐と一緒に島に出かけられましたよ」
たしぎの問いを聞いた軍曹が答えた。
「そうですか」
たしぎは、何か用があったのだろうかと思いを巡らせながら、刀の手入れを始めた。
その頃のスモーカーとaaaは街を散策しながらある場所へと向かった。
「スモーカーさん!クレープ!アイスもある!食べたい!買って!!」
「後で、な」
スモーカーはaaaの手を握って、子供のように手足をばたつかせて駄々をこねるaaaを引きずる。
「行くぞ!ちゃんと歩け!!」
「はーい」
スモーカーに怒鳴られたaaaはスモーカーと手を繋ぎながら、街外れの森を通りすぎ、そのある場所に着いた。
「…おはよ、お母さん」
そこは、aaaの母の墓だった。
aaaは買っておいた墓に水をかけて、残りをコップに注いで墓の前に置いた。
「命日だね…」
涙を流すaaaの背中を、スモーカーは優しく見守る。
何分経ったか、aaaは涙を拭うと、スモーカーの方を振り向いた。
「お墓寂しいから、お花摘んでくる…」
aaaはそれだけを言って、目を合わすことなくスモーカーの隣を通りすぎようとした。
「遠くへは行くンじゃねェ」
しかし、その言葉を聞いてaaaはスモーカーの横顔を一瞥すると、うん、と短い返事をして森に向かった。

スモーカーはaaaの配慮に感謝しつつ、上司の墓を見つめた。
海軍の資金で建てられた、立派な墓だ。
墓を眺めていると、懐かしい思い出を思い出す。
綺麗だった彼女に好意を寄せていた青い自分がいたこと、彼女がそれを知っていてaaaを頼んだこと。
彼女が優しく笑っている時、怒る表情、戦う姿。
aaaは母親に似ているとスモーカーは常々思う。
誰にでも優しく、表情が豊かで、仕事も早く、そして天性の才能を持っているところも、すべて。
「スモーカーくん!aaaをよろしくね!」
ふふ、と笑った上司に呆れていたが頼りにされたことが嬉しかった。
「君は、悪態つくくせにちゃんとしてくれるわよね。……そういうところが好きよ」
その言葉にドキリとした自分が馬鹿みたいだと今では思う。
「スモーカーくん」
頭の中で彼女が呼ぶ。

その頃、aaaは森に生えていた野花をぶちぶちとちぎっていた。
「これでいいでしょ」
花を十本ほど手に握って、墓に向かった。
墓の前に立っているスモーカーの背中がスモーカーとは違う人に見えて、aaaは花を地面に落としてしまったことを気にもせずに、スモーカーに抱き着いた。
「!?…aaa?」
衝撃でスモーカーから煙が少し立った。
「スモーカーさん…」
aaaはスモーカーの背中に顔を埋めたまま抱きしめている。
スモーカーは自分の腹に回されたaaaの手を触った。
「……はぁ」
スモーカーが大きく溜息を吐いたことに、aaaは呆れられたんじゃないかと思った。
「す…スモーカーさん…?」
「いや…、俺が泣かせてどうすんだって思ったんだよ。今日はaaaが泣く日だろ」
スモーカーは一瞬煙になってaaaと向かい合わせになると、aaaを力強く抱きしめた。
「……そうなんですか」
「そうだろうが」
aaaは潤んだ目を閉じた。
スモーカーが背中を優しく撫でる。
昔から自分が泣いている時はいつもこうしてくれていたことをaaaは思い出した。
しばらくして落ち着いたaaaはスモーカーの腕から離れると、散らばった花を拾い集めて、墓に供えた。

「……行こっか、スモーカーさん」
振り向いたaaaがスモーカーの目を見て笑った。
スモーカーはくわえた葉巻を吸って、息を吐く。
昔のことは昔であって、今はaaaを愛していることに変わりがない。
「スモーカーくん」
彼女への好意が過去の感情であるからこそ懐かしいのだと自分は知っているから、不安を抱えたaaaには自分の気持ちを伝えなければとスモーカーは思った。
「…aaa、愛してる」
いつものスモーカーでは信じられない台詞を聞き、aaaは目を丸くした。
「…私も」
aaaの小さな呟きが、スモーカーに届いたかはわからない。

「アイスとクレープ、どっちを先に食べようかなぁ」
スモーカーと手を繋いで、aaaはぶんぶんと手を振った。
「どっちも食う気か」
「だって食べたいもーん」
aaaは遠くにある街の景色を見ながら、アイスとクレープの名前を交互に言っていた。


◯おまけ(昔話)
まだスモーカー流慰め方を思いつく前の話。
「スモーカーおじさああぁあ!やだああ!いーかーなーいーでぇえ!!」
海軍の仕事が入ったスモーカーを泣いて引き止めるaaa。
「あー…クソ…」
「わぁああん!!やだぁあー!」
「aaa、すぐに帰ってくるから泣き止め!」
「ずっといてよぉお!」
「クソ…!通じねェ!」
スモーカーはaaaが泣くたびに困っていたのでした。


prev next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -