『乙女』主inとうらぶ

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時の政府などというふざけた機関に問答無用で拉致されそうになったので、此方もそれなりの対応をさせて貰ったら今度は平謝りをしてきた。
・・・最初からそうすれば良かったのに、と思ったのは秘密だ。

仮にも人外生物と乱戦乱闘、切った張ったの大立ち回り、それこそ国を巻き込んでの大戦争に身を置いていた人間に対するものでは無いだろう。
何故負けるかも、という可能性を思い浮かべなかったのか甚だ疑問である。


とにもかくにも。
あろう事か時の政府は時間の流れに干渉できるらしく、灰音は元の時代には自力で帰れない事態になっていた。
それどころか歴史を変えようとする者達を倒さないと帰せないとまで言われてしまった。

・・・それを聞いた時「貴方達が拉致してきたくせに何を言うか。寝言は寝て言えば」の一言で切り捨ててしまったのは仕方が無いだろう。

「草薙様!このままでは過去が改変され貴女様の存在も危ぶまれるやもしれないのですよ!?」
「別にどっちでも良いけど」
「良くありません!!」

悲鳴にも絶叫にも似た声に灰音は嘆息する。
過去が変わるのなら先生が死んでしまう事を改変して貰いたい。
・・・言ったらまた面倒な事になるので口には出さないけど。

「そんな事どうでも良いから元の世界に帰して頂戴、さもないと文字通り狐うどんの具材にするわよ
「ぴゃっ!?」


「草薙灰音様、貴女様のその身体能力と潜在能力を見込み、ブラック本丸と呼ばれる場所へ査定並びに監査員として働いてくれませんか?」
「貴方人の話は聞いてた?そんな事より私を元の場所に帰せっつってんのよとうとう頭が爆発したか」

あまりの傍若無人っぷりに灰音の刀が再び火を噴いたのは言うまでもない。

  ♪

「ブラック本丸・・・って・・・」

まあ内容はブラック企業みたいな感じかしら。
何処の世界にもそんなものがあるとはつくづく人間とは愚かな生き物だ。

目の前には本丸と呼ばれる建築物。
こんのすけと呼ばれる何とも頼りない狐一匹と刀二振りををお供に灰音は所謂ブラック本丸の前にいた。

「・・・何この澱んだ空気」
「おや審神者様は本当に優秀な目をお持ちなのですね!
これは前審神者様と刀剣男士達による深き怨嗟によるものでしょう。
恐らく中に入ればその空気により体にも影響は受けるかと」
「ふーん・・・」

蒼銀色の長い髪を風に靡かせつつ、灰音は緊張感を感じられない足取りで本丸と外界を繋ぐ扉を音もなく開ける。
途端に漏れ出る独特の臭気に灰音とこんのすけは瞬時に眉を逆立て、手の甲で鼻を覆う。

「こ、これは・・・」
「鼻が捻じ曲がりそう」

戦とは違う空気と臭いに灰音は顔を顰めたまま、だがしっかりとした足取りで前へと進む。

「ま、まさか審神者様、本丸の中に入られるので!?」
「そうだけど。というよりその審神者様って何」
「貴女様の刀は大太刀!屋内では使えないのに何故そんな無謀な真似を!」
「(無視した)そんな事、何の弊害にもならないわよ。
敵は待った無しなんでしょそんな時間を無駄になんて出来ない」

身の丈程ある野太刀という特性上、一般的に考えて屋内というだけで彼女にとっては不利な状況だ。
だがそれは理屈であり、それを抜きにしても彼女の戦闘能力は野太刀を抜きにしても何ら不利にはならなかった。

例えば打刀、例えば薙刀、例えば銃。
戦において獲物など掃いて捨てる程戦場に転がっており、足りなければそれで補える。

「――――」
「貴様、人間か。また俺達を傷付け、破壊する気か・・・!」
「・・・血の気が多い連中ね。まあ人の話をきかないのなんて予想内だけど」

さて私は私の務めを果たしましょう。
乱戦乱闘はお手の物、『戦場の狼』『荒神』と称された私の実力は果たして神様に通じるかしら?
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