君がくれた絆創膏は、もったいなくて使えない。いつも胸ポケットに入れてお守りにしている。


あの日君は屋上の、柵の外側に立っていた。僕は君が次に何をするかを想像し、青ざめた。でも恐怖と共に、期待もあった。
君は僕の想像した通りにはならないで、ただ握っていたものを手放した。地上に落下したそれは、君の身代わりだというように砕けた。
君が屋上から落としたものは、硝子の中に花を閉じ込めた置物だった。だったのだろう。花は硝子から解放されている。僕は固められた花の方だけを拾い、持ち帰った。


使えないものばかり集めてしまう。でも役立たずのものだからこそ、いつまでも磨り減らすことなく取っておける。君のくれたものならなおさら、記憶を封じ込めて。


屋上にあの日と同じ雨が降る。八の月は慟哭の雨、十の月は調べの雨と言い習わす。今、九の月は囁きの雨。囁いて、僕の肩を少しずつ湿らす。
屋上に上るのは登山に等しかった。柵の外にあの日の君を見て苦しくなった。君が立っていた場所に、何か言葉が刻まれていた。僕らにしか分からない囁き。胸ポケットから絆創膏を取り出し、そこに貼った。



第56回フリーワンライ
使用お題:君がくれた絆創膏 囁きの雨 落としたものは







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