しずくが一滴、零れる。
水面にぶつかった瞬間を切り取る。美しい水の王冠。これで百個目。今日のノルマは終わった。
冷蔵庫の中のように冷たい部屋から出て、タイムカードを切る。受付を通り過ぎ、雑踏を抜け、自宅へ辿り着く。扉が開くと、いつものようにきみがこんこんと眠っている。わたしはきみの隣に滑り込み、きみの薬指に自分の薬指を絡める。そうすればきみの夢が見られるかもしれないと考える。薬指の束縛、きみの指は冷たいけれど、不自然に繋がれた指の痛みが、きみの目覚めを約束してくれると、期待してしまう。
きみは夢の中で言う。いつかあの水の王冠をかぶせてほしいな。だめだよ、とわたしは答える。あの王冠は、孤独な王様にのみ与えられるものだからね。



(第17回フリーワンライ参加作品
使用お題・薬指の束縛、零れる、冷蔵庫の中、雑踏、王冠)






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