虫の音などとうに忘れてしまった。
 ぼくは分厚い雪の上を一人歩いていた。今回の「転校生」を見つけるために。
 まずは足元の雪を掻き分けた。生きている時は柔らかかっただろう毛皮が見えたが、これは人間ではない。
 ぼくはため息をつき、雪を埋め戻した。簡単に見つかるはずがないことは、よく知っている。
 ぼくはどんどん雪を掘り返していった。制服らしきものが垣間見え、ぼくは勢い付いたが、見えたのは軍服だった。
 ぼくは消沈しながらまた雪を埋め戻そうとしたが、少しためらった。軍人の手は助けを求める形のまま、天へと伸びていた。
 ぼくはその小指に自分の小指を絡め、指きりげんまんをした。どんな誓いを立てればいいのかは分からないままに。
 何時間も歩き、指の先を痛くして、ぼくはやっと今回の「転校生」を見つけ出した。ぼくが少し雪をどけただけで、彼は自力で這い出てくることができた。
 彼は、さっきまで雪の中にいたとは思えないほどしっかりとぼくの前に立ち、口だけで微笑んだ。再び降り出した雪が、彼の長いまつげの上で溶けた。夏は遠い。



(第16回フリーワンライ参加作品
使用お題・虫の音 軍人 転校生 夏は遠い 溶けた 指きりげんまん)






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