彼女が夜な夜な出掛けていくので後を追った。
彼女は雲の階段を登り、月のふもとに辿り着くと、銀色の小刀を胸元から取り出した。
今夜の月は見開いた猫の目のように満ちていて、白い光が照らす彼女の横顔は陽の下で見るよりも美しかった。
彼女は満月の端を小刀で小さく切り裂いた。すると月からとろとろと白い雫が零れた。植物をちぎった時に出る白い汁みたいだった。
彼女はその白い汁を、懐から取り出した小さな瓶に掬った。
あれだ、と僕は思った。最近彼女の家が商売している万能薬だ。
僕の昂揚を気付いたろうか、彼女が振り返った。僕は彼女の前に出ていき、
それは「月の涙」か
と訊ねた。万能薬はそういう名前で売られていたのだ。
彼女は悪びれる様子もなく肯定した。僕は少しむっとして、
月を切り裂くなんて。「月の涙」じゃない、「月の血」だろう
と責め立てた。彼女は言い返さなかったが、その美しい顔はさっと青ざめた。
すると彼女の後ろで輝いていた月が、彼女の付けた傷跡からぱりぱりと乾いてひび割れ、みるみるうちに光を失い灰色のかたまりとなってしまった。



(twitterでのフリーワンライ企画第9回参加作品
お題・月の涙)





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