去年からずっと彼は暇さえあれば
裏庭で土を掘っている
何のためかはわからないが
ずいぶん穏やかになったから
必要な作業なのかもしれない
静かに土を掘りすすめて
今では何メートルもの深さになっている
彼は今日も穴の底にはしごを降ろして
その繊細な指で少しずつ
土を掻いていく

何週間も彼は帰ってこなかった
わたしはただ淡々と待っていた
小さな木の家が長い雨に濡れ
苔におおわれて緑色になる頃
ふらりと戻ってきた彼の手は土で汚れていた
(穴にはいなかったはずなのに)
どこにいたの?とは
わたしは聞かなかった
聞かれてもいないのに彼は
おんなのひとと、
と言いかけたのでわたしは
土を掘っていたんでしょう
と遮った
彼は少し顔を曇らせながらも うなずいた
そうだよ
わたしは彼の手をとった
柔らかい土のにおいがする手
それからわたしたちは手を取り合って
彼の掘った井戸で泳いだ





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