一人暮らしの彼女のもとに、小さな包みが届けられたのはクリスマス・イブの夜だった。差出人はわからない。
 世間から取り残された未亡人に、誰がクリスマス・プレゼントなんて贈るのだろう、と彼女はいぶかしんだ。まさか爆弾とか入っていたりして。そんなわけない、だいいち私にそんなことをして得する人がいるだろうか。でも彼女の妄想は止まらない。箱を開けたら白い粉が入ってるとか、人間の体の一部が入ってるとか、細かな虫がワッと出てくるとか……。
 そんな彼女の思惑とは裏腹に、プレゼントの包みは大変綺麗な姿をしているのだった。
 華美ではないが、丁寧に清潔に梱包されている。リボンから善意が溢れ出ていた。
 彼女は意を決して包みに手をかけた。夫を失った私に、これ以上不幸があっても痛くもかゆくもない。するすると滑らかにリボンはほどけ、美しい展開図のように包装紙は開かれた。白い箱が横たわっていた。箱を開けると、箱と同じ白い肌の赤ん坊が眠っていた。一瞬、死んでいるのかと思った。しかし彼女が耳を近付けると、すうすうと静かな息が聴こえた。肌は絹のリボンのようにすべすべだ。抱き上げると、ぱっちり丸い目を開けた。泣きもせず、ただ微笑んでいる様に、彼女には見えた。
 コウノトリが赤ちゃんを運んでくるってよく言うけれど、クリスマス・プレゼントが赤ちゃんだなんて。彼女は吃驚しながらも、嬉しく思った。亡き夫との間には子供がなかったのだ。しかもこの子は夫に似ている。そんな気がする。彼女は誰だか知らない贈り主に感謝した。赤ん坊は女児で、彼女は「桃子」と名付けた。おばあさんの元に流れついた桃のような、サプライズ・プレゼント。将来は正義を施す人になるかもしれない。

 翌日、彼女は夫の墓前に立っていた。キリストの産まれた日に彼は死んだのだ。彼女は桃子を胸に抱いていた。今年はそれほど悲しくない。娘がいるからだろうか。射すような冷たい空気の中、墓地に佇む彼女は果たして聖母になったのだった。
 桃子は、彼女の生活の中心になった。桃子はその名の通り、彼女の灰色の生活に桃色の彩りを添えた。彼女は桃子に翻弄されるのをむしろ喜んだ。
 しかし一人で子供を育てるのは大変だった。まして一番かかりっきりになる時期のこと。それにやはり、子供と二人だけではさびしいと思った。夫がいないと。彼女は様々な理由で、夫を恋しいと思い、必要だと感じた。

 そうしてまたクリスマス・イブがやってきた。彼女は桃子の誕生祝いをしてあげていた。小さなケーキはまだ食べられないかな?一本ロウソクを立てて。桃子よりも彼女の方がはしゃいでいた。その時、玄関のチャイムが鳴る。
「はい?」
「あ、宅配便です」
「誰からかしら……」
「さあ……送り主が書いてありませんね、どうします?受け取らないでおきます?」
「いえ、心当たりがありますので、受け取っておきます」
 彼女は去年のことを思い出したのだ。
「そうですか。……大きいので、気をつけて下さい」
 配達人が運び入れたのは細長い大きな箱だった。去年と同じく綺麗に包装されている。大きさはそう、まるで……柩のようだ。そう思うと、彼女はにわかに怖くなった。去年やってこなかった不幸が今やってくるのか。一人ならそんなに怖くなかったのに、桃子と一緒だと何故か怖く感じた。それでも彼女という箱の底に、希望ならぬ好奇心が残っていた。彼女はおそるおそるリボンをほどいた。
 美しい白い肌の男性が眠っていた。生きていた。まるで墓底から蘇ってきたみたいに、綺麗な姿でそこにいた。そしてそれはまぎれもなく、彼女の夫の体なのだった。

 彼女は元の生活を取り戻したのだと思った。元通りどころか、子供まで!彼女は以前よりも幸せなのだった。人よりも幸せなのだった。ありあまって幸せなのだった。

 時々幸せが恐くなった。一体誰がこの贈り物をしてくれたのだろう。この夫は、以前の夫と全く同一人物なのだろうか。これが夢だったらどうしよう。この生活はどこか嘘っぽくないか。夫と子供は虚構の存在なのではないか。それとも……私自身が虚構なのではないか。
 毎夜毎夜彼女の中に黒い疑問が湧き上がり、ある朝マンションのベランダ下の駐車場で、飛び散った血の中で冷たくなった彼女が発見された。彼女の死顔は、泣いているのか笑っているのかわからなかった。
 その年のクリスマス・イブ、彼女がもといた家に、三度目の配達がなされた。







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