「おじいさん、この服に洗濯とアイロンを……」
 少女が羊たちの脱いだモコモコの服をどっさり抱えて作業場を覗くと、たらいに溜まった泡の中に、小さな白いクジラが気持ち良さそうに浮いているのが見えた。
「ごめん、またぼくしかいないんだ」
 少年が奥から顔を出すと、「じゃあきみでいいよ」と少女は羊の服を押し付けた。
「ぼくもきみに渡したいものがあったんだ」
 そう言って少年は星のかけらが大量に入ったカゴを取り出した。
「時々、蒸気の雲から降ってくるのを集めておいたんだ」
「気持ちは嬉しいけど、こんなにたくさん必要ないの。そこに浮かんでるクジラがいなくなったから、夜空に星が飽和状態なの。取れかけた星を直さなければならないから、お針子さんの仕事は忙しいのだけど」
「そうか、じゃあこれはクジラの餌だな」
 少女は泡に埋もれていたクジラをつまみ上げた。
「きみはこのクジラを連れて帰ったけど、このクジラは何か役に立ってるの?」
 尋ねられて、少年は口ごもった。
「うん、まあ、ぼくが洗濯物を取り込み忘れてると知らせてくれるよ。かわいいから眺めてると楽しくなってくるし。石鹸の代わりにはならないけど……」
「そうでしょうね。いっそ針刺しにでも出来たら便利でしょうけど」
 そんなことを言いながら少女がクジラをつついたので、クジラは仰天してカゴに盛られた星に突っ込み、見えなくなってしまった。少女が「冗談よ」と慰めてもクジラは出てこなかった。少年は微笑んで、空を見上げた。今度は月を生む雲を作らなくては。あの日から月が欠けたままだもの。

(了)







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