夜の服をひるがえして女たちは、星のかけらを次々と夜空に縫い付けていった。星のかけらだけではなく、複雑にカットされたオパール色のビーズや、鏡のように光るスパンコール、ラピスラズリの粉や、金糸の刺繍なども、女たちは飾り付けていった。少女も見よう見まねで星のかけらを縫い付けていった。
 夜空を縦横無尽に縫いながら、女たちは歌をうたった。

   記憶を縒るは金色(こんじき)の糸
   心を掬うは金色の針

 宙を舞う氷晶のように清らかな歌声は、オーロラのように揺らいで辺りに響き渡り、びろうどの夜空をさざめかせた。
 少年は広大な布に広がるまやかしの星を眺め回した。女たちの扱う金色の針の魔法によって、ギラギラとした装飾の星たちは、いかにも本物らしくまたたくのだった。
 女たちはお互いどのように示し合わせているものか、話し合わなくても自分の持ち場で計画通りの作業ができているらしかった。星の配列は、一見でたらめのようでいて実のところきちんと法則があった。少年は、いつか見た星座盤を頭に思い浮かべた。
 しかし少女の描く星座はまるでいいかげんだった。手際の良さは流石で、どの飾りも外れないようにしっかりと留められていたが、その並びにはどこかぎこちなさが感じられた。
「そんな星座、見たことないなあ」
「見たことないのは当たり前よ。新しい星座を作ってるんだもの」
「そう。これは何座?」
「これは〈七匹の兎〉座。あっちのは、〈爪の微笑み〉座よ」
「じゃあ、こっちの細かいのは?」
「それは〈つむじ風〉座と〈ユニコーンのたてがみ〉座。隣は〈ダリアの臍〉座」
「何だって?」
「〈フラミンゴの心臓〉座よ」
「さっきは〈ダリアの臍〉座って言わなかった?」
「ちゃんと聞こえてるんじゃない」
「口からでまかせばっかりだなあ。だいたい、爪が微笑むところなんて見たことがないや」
「星座なんてどうだっていいじゃない。星がきちんと並んでれば」
 少女が愚痴をこぼすと、そばを通り過ぎた女が「いいえ、星座は重要よ。空は物語ですからね」と意味深長な言葉を呟いて行った。
「ここに月があればもっと美しくなるのに」
 少女がため息をついて漏らすのを聞き、少年は、そういえばどうしてこの空には月が無いのだろう、と今さらのように気付いた。
 少女の言葉を耳にした針子の女の一人が、何かを言いかけた。しかしその声が発せられる前に、女と少女の間をすさまじく巨大な物体が横切っていった。真っ黒な砲丸のようだ。夜空を切り裂き、落ちるように飛んでいく。
「あのクジラが月を食べてしまったの」

(続)





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