少女は迷うことなく、大きなベッドの上に横たわった。そして躊躇う少年に手招きした。少年はおずおずと少女の隣に寝転がった。ベッドは二人が寝転がってもまだ余裕があるくらい広かった。
 少女は少年の手を取り、仰向いて目を閉じた。少年はこれから何が起こるのか不安に思ったが、少女の行動に従った。片手に少女の細い手、片手に金色の針を握り、目を瞑った。瞼の裏に、夜が訪れた。
 少年が再び目を開いた時、そこはもう夜だった。少年と少女は手を繋いだまま、夜の真ん中で身を起こした。
 二人は夜空の中に浮いていた。まるで見えない糸で吊り下げられているかのように、足はふわふわとして覚束なかった。水の中で歩くように、夢の中で走るように、思い通りの動きができず少年はもどかしがったが、少女は慣れているらしく、すぐに感覚をつかんでいた。
 ほどなく、すらりとした女たちが幾人もやって来た。女たちは夜空を相当歩き慣れているらしく、歩いているというよりは舞っているような優雅な足取りだった。皆、下着のような薄くて軽い衣を身に纏っており、少年は行列を眺めながら一人どぎまぎしていた。
 少女は薄衣の女たちの前に進み出で、手に抱えていた夜の服を一人一人に配って回った。女たちは揃いの服に袖を通し、少女から星のかけらを貰い、それぞれの持ち場についた。夜の服は夜空の色にうまく溶け込んでいた。
「すいません、誰かこの針を落とした人はいませんか?」
 かすれる声でおそるおそる少年が呼びかけたが、女たちは全員同じように首を横に振った。「皆ちゃんと自分の道具は持っているわ、なくした人はいない」
 少年が途方に暮れていると、一人の女が助言した。「それ、ちゃんとした星縫い用の針なのでしょう? あなたがそれを使って星縫いを手伝ってくれたら良いわ。人手が足りなくて困っていたところだから」
「でもぼくは洗濯屋で、お針子さんたちのようにうまく針は使えないんです」
「それでは、そちらの仕立屋さんに手伝っていただこうかしら」
 少年は初めて少女がうろたえる姿を見た。少女は何か口の中で呟いていたが、やがて少年から金色の針を受け取った。
 女たちはいっしんに針を動かしていた。少年は、夜空が紺のびろうどで出来ていることを初めて知った。女たちがせわしく動き回る風にあおられ、びろうどの表面はきらきらとさざ波立った。

(続)





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