ナマエという少女は特に目立った生徒では無かった。特別筆記のできるわけでもなければ、闇の魔術に長けているわけでも無い。至っての普通なのである。しかし彼女がよく行動を共にするメンバーは有名人のハリー・ポッターとその親友、ロン・ウィーズリー。そして学年首席ハーマイオニ・グレンジャーの3人だ。何故と聞かれればそこに理由は無く、いつの間にかそうなっていたという具合だった。

ナマエは一目で東洋人と分かるような真っ黒の長い髪と、同色の瞳をしており、トレードマークとも言える赤縁の眼鏡をかけている。
いつも朗らかに笑っている彼女には、一つだけ、他の人にはない魅力があった。

それに気が付くものは、またごく僅かなのだが……。




「今日から、あなた達には結婚してもらいます」

スリザリンとの合同授業でのマクゴナガル先生の言葉は、彼女が少しおかしくなってしまったと生徒達に疑わせるには十分なものだった。
スリザリンの寮監、スネイプ先生は、教室の後方でむっつりと押し黙っている。

「あの、マクゴナガル先生」
頬をひくつかせて挙手したのは我らが首席のハーマイオニーである。

「今なんとおっしゃいましたか?」
「聞こえませんでしたか?あなた達には結婚してもらいます、と言ったのです」

唖然としながら椅子に座るハーマイオニーに私が掛けてあげられる言葉は何も無かった。仕切り直す先生の話を皆、信じられないと言った表情で聞く。

「お互いの寮同士での結婚は認められていません。よって、グリフィンドールの男子はスリザリンの女子生徒の中から、相手を選ぶのです。それはまた、スリザリン男子も同じです」

グリフィンドールの生徒にとってもスリザリンの生徒にとっても、一言一言区切られて伝えられたその言葉は、死刑宣告に近いものだった。
呆然として声も出ない生徒達を余所に、どんどん話は進んでいく。


「夫婦となった者達には部屋を割り振りますからこちらに来てください」
「部屋!?」ロンが悲鳴のような声を上げる。
「まさか、……そんな、スリザリンなんかと同じ部屋で過ごせなんてことないよな、絶対」
「その通りですよ。ウィーズリー」

ロンだけではない。生徒たちは今度こそ言葉を失った。

「言っておきますが結婚と言っても3ヶ月間の企画授業です。目的の一つには各寮生の親交と、協調性を深めることがあります。皆さんいいですね、くれぐれも野蛮な行為は控え、話し合いと譲り合いでパートナーを決めること。何も実際に結婚しろと言うわけじゃありません。3ヶ月を共に過ごせるパートナーを探すのです」
「先生…!」
シェーマスが立ち上がって泣きそうな声を出した。

「せめてハッフルパフや……レイブンクローの女の子ではいけませんか、だって」
「いけません。フィネガン」
マクゴナガル先生は取りつく島もない。

「ハッフルパフ、レイブンクローの生徒たちは今それぞれの寮監の先生方と共に別室で、あなた方と同じ説明を受けています。
全くなんですか、あなた方は雄々しきグリフィンドール寮の生徒ではないのですか?スリザリンの生徒たちを見習いなさい」

スリザリンの生徒たちが黙りこくっているのは、決して諦めて受け入れているわけではなく、ショックで言葉が出ないせいだと誰もが分かっていた。

「さあ、早く話し合って決めてしまいなさい。どうしても無理だというなら私がペアを作ってしまいますよ」

その言葉で生徒たちは慌てて額を付き合わせ始めた。(とはいっても、交わされる会話はほとんどが愚痴めいたものばかりである)
ロンが頭を抱えて項垂れた。

「どうしよう……僕スリザリンに女友達なんて一人もいないよ。だってアイツ等、ほら、常にツンツンしてるんだもん」
「僕もだよ……、ナマエどうしよう」

すっかり困り果てている二人を見て、ナマエは苦笑した。


「ハリー、向こう側に座っている金髪で大人しそうな子、分かりますか」
「うん」
「セリア・クラウリーという子なんですけど、毎日フクロウ小屋の掃除をしているくらい動物が好きでとても優しいんですよ。この前、ハリーのフクロウのことをすごく褒めてました」
「ヘドウィグを?ナマエ、それ本当?」
「ええ、何度か話したことがあります」

私はロンに顔を向ける。

「それと、ロン。セリアの奥に座ってる子は少し目付きは悪いけど気性のいい子ですよ。明るいし冗談が好きです」
「そうなの!?ええと、名前分かる?」
「アナベル・チェイシーです」
「ありがとう!本当に助かるよ!!」

ざわざわとしている教室内を二人はだっと駆けていった。隣でハーマイオニーが感嘆の息を吐く。


「ナマエ、あなた凄いのね…!私達あなたにスリザリン生の友達が居るなんて知らなかったわ」
「そうですか?ふふ、一応、ハッフルパフとレイブンクローにも何人か居ますよ」
「まあ!本当にすごいわ!」

そう、ナマエの魅力は人当たりの良さと、その親しみやすさであった。
目立った長所とは言えないが、対立する四つの寮が存在するこの学校においてそれは稀に見る魅力なのであった。

「ありがとうございます。でもほら、ハーマイオニー。私達が今一番考えなければいけないのは……」
「君らにプロポーズするのは誰か、って事だ」

後ろからかけられた声に、ナマエとハーマイオニーは驚いて振り返った。

「マルフォイ…!?あなた何か用なの?」
「ああ。君にじゃないけどね」
そう言葉を置いてナマエに向き直ったドラコは、居心地悪そうに口元を引き締めた。
今朝方と同じように紳士的に手を差し出す。

「……僕のパートナーになってくれないか」
「え、で、でも」
「ナマエ。」ドラコはナマエの耳に唇を寄せた。
「頼むから…早くOKしてくれ。これ以上針のむしろに居たら僕は憤死するかもしれない」

ナマエは慌ててドラコの手を取った。
冷静を装ったが、ナマエの頭はパンク寸前だったし顔は明らかに赤くなっていた。


敵対している寮の中で結婚相手などそう直ぐに決まるはずもなく(ハリーとロンは別として)マクゴナガル先生のもとへはまだ誰も向かっていなかったようだ。沢山の視線をひしひしと感じ、ナマエは顔を一層真っ赤にさせた。

「これはまた、意外な組み合わせですね」

マクゴナガル先生は麻の袋を差し出した。

「ここにはあなた方二人に合った指輪が入っています」

何の戸惑いも無くドラコはその袋に手を入れた。指先に当たったそれを摘まむようにして二つ取り出した。
出てきたのは、細く蛇の装飾が施されたシルバーリング。ドラコは満足そうに頷いた。
「君のはこっちだ」
一回り小さい指輪をナマエの指にはめたドラコ。そのスマートな動作には、どこからか羨望のため息が聞こえてきたほどだ。

「誓いのキスはしなくて結構ですよ」
マクゴナガル先生の言葉で、ナマエもドラコもはっとして顔を赤らめた。二人の後ろには指輪待ちの列が出来始めていた。

「パートナーが決まったら全員が終わるまで席に座って待機してなさい。では、次」

二人は壇上から降りながら、教室後方の席へ向かった。
「……ドラコ、私で良かったんですか?」
「まあね。僕は君以外のグリフィンドール生で3ヶ月を共に出来そうな知り合いは居ないんでね」


実のところドラコは、ナマエが誰かに取られないかが気が気でなかった。当然そんなことはスリザリンのプライドが邪魔をして言えるわけもないが。

しかしながら、席についた後ではにかんだナマエに「私もです」なんて同意をされてしまえぱ、緩む口元を押さえる事に必死になるのもまた仕方がないことなのであった。

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