「女の子はぬいぐるみを抱き上げ、その鼻のてっぺんにキスをしました。
すると、女の子の抱いたぬいぐるみの周りをキラキラした光の粉が舞い、風がびゅんびゅん吹き渡り、やがて王子様は元の姿に戻りました。

泥だらけに汚れて現れた王子でしたが、女の子は驚きませんでした。
そんな気がしていたのです。

そうして、仲直りをした女の子と王子様はお城へ戻っていったのでした」


フィオレはベットの上に立ち上がり、キャッキャと手を叩いて喜んだ。
ドラコは傾きかけたフィオレの背中を支えて、ふと疑問に思った事を尋ねる。

「この絵本、ENDが書いてないな」
「そうですね」

たいていの絵本やおとぎ話は話のくくりとしてENDと綴られているのだが、この本にはそれが無かった。

「これからも続いていく、という意味なんじゃないですか?」
「挿絵しかないし、その挿絵も動かないし、おかしな本だな」

マグル生まれのナマエにとって、絵本の絵が動かないのはごく当たり前のことだったが、ドラコには疑問に思う点だったらしい。
そういえばナマエも、絵の動かない本を読むのは久しぶりだった。


「フィオレ、眠いみたいですね」
「…うーぅ」
「だろうな。僕らの倍は歩いたようだし」
「その分楽しんだみたいですけど…ね?」

すうっと目を閉じて眠りに落ちてしまったフィオレの額にキスをしたナマエは、優しく優しく囁きかけた。

「たくさん心配しましたよ

 もう どこかへ行っちゃわないでくださいね」

「おやすみ、フィオレ」

ドラコとナマエはフィオレの小さな手を握りながら、いつの間にか同じように川の字になって眠ってしまった。
そしてその日の三人の夢は、この上なく幸福なものだったとか。

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