「そして、人形の姿になった王子様は、森の奥深くへすすんでいきました」
「べーあ!」
ドラコがシャワーを浴び終えてナマエの寝室へ行くと、ナマエはフィオレに絵本を読み聞かせているところだった。
真っ白いタオルで髪を拭きながら、二人のいるベットに自分も腰かける。ナマエはドラコが狭くないように少し脇にズレたが、結局ドラコが詰めてきたのであまり意味がなくなってしまった。
「ん?…この本、挿絵しかないじゃないか」
「そうですね」
「それでも読めるのか?」
「ええ、何となくですけど」
ナマエは照れ臭そうに俯くと、続きを読み始めた。
あぐらをかいた足の間にフィオレを座らせて、ナマエの読み聞き入る。
「王子様はたくさん歩いて、やがて、森の中で日の当たる場所に出ました。
ボロボロになって倒れこんだ王子様
そこへ、一匹の白い小鳥がやってきて、囁きかけました……あ」
「あ」
ドラコも、ページをめくったナマエと同じように、声を出す。
見開いた右と左のページに一文ずつ、文章が差し込まれていたのだ。
「このキャンディをあげれば、きっと仲直りできるわよ」
綺麗な包装紙に包まれた飴玉をくわえた、小鳥の台詞だろう。
次に、それを受け取るクマのぬいぐるみの絵。
「ありがとう」
ドラコがぽそっと口にしたのは、くまの言葉。
そこから先は、また絵だけの物語になってしまった。
「王子様は走りました。
来た道を戻って、
戻って、
やがてお城が見えてきました。
でも王子様はお城を通り過ぎました。
なによりもまず、あの女の子に会いたかったのです。」
「でもこいつ、こんな姿じゃ彼女に気付かれないんじゃないか?」そう言ったドラコの頭を、フィオレがパシンと叩いた。
ナマエはふふっと笑みをこぼして、物語を続ける。
「女の子の家の前についた王子様は、扉をノックしました。
少しして、女の子が扉を開けます
女の子は、扉の外で立っているくまのぬいぐるみを見て、驚きました。
そして、そのぬいぐるみが自分に向かって何かを差し出している事に気が付きます。」
「…それは、とても美味しそうなキャンディーでした」
ナマエはぱっとドラコを見た。
悪戯に笑んだドラコが、物語の続きを、少しぎこちなく語り始める。話と話の間に数秒間が空くのは、深く考えているが故だ。
「女の子はそれを受け取って、くまを見つめました。
くまは
女の子がそれをなかなか、食べようとしないので、焦る…?ちがう、困って……不安になりました…?」
「はい。きっと、そうですね」
「(よし)…少しして女の子は、それを口に入れました。女の子が笑う姿を見て、王子は」
ドラコはしばらくその絵に見入ってしまった。
飴玉を頬張り目をキラキラさせて喜ぶ姿は、ナマエとよく似ている。
「とても嬉しくなりました」
というか
「王子は今まで、人に意地悪ばかりをしていたので」
こいつ
「こんなふうに喜ばれたのは初めてでしたから。」
…僕に似てるな。
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