夕食を終えた生徒たちは、自分たちの寮や企画施設へ戻ったり、広間でお喋りを続けたりと各々に就寝時刻までの時間を過ごしていた。
ナマエとドラコは部屋へ戻るべく、校舎の外へ出て芝生の上を歩いていた。


「それにしても、あのスネイプの顔といったら」
フィオレを肩車したドラコが喉の奥でくっくっと笑う。それにつられてナマエも微笑んだ。
「でも、ほんと、私もあんなに困ったスネイプ先生は初めてです」
満天の星空に両手を伸ばすフィオレを優しい眼差しで見つめたナマエは、先程の出来事を思い出していた。





「おや?……お二人とも、我輩に、何か用かね?」
「えー…あの、ですね」と言葉尻を濁したのはドラコだ。
「授業を妨害したことについて今更罰則を与えたりする気はないが、今後赤ん坊はきちんと見張っていてもらわなければならんな…。次また同じような事が続くようなら、我輩もそれなりの」「あー」

スネイプの言葉を遮ったのは、フィオレだ。黒いマントの裾を引き、キャッキャとはしゃいでいる。
スネイプは心の底から疲れた顔をして言った。


「……何かね?」
「いぷ」

ドラコはそんな様子を息を詰めて見つめていた。蹴り飛ばしたり…は流石にしないと思うが、スネイプが子供好きとは到底思えない。
もしフィオレに何か痛い事をするようなら、僕がスネイプに失神の呪文をかけてやる。とドラコはほんの少し殺気立った。


「ね…ぇいぷ!」

しかし、そんなドラコの心中など露知らずなフィオレは、そのままスネイプの右膝のあたりに腕を回してきゅうっと抱き着いた。
カチンとスネイプが固まる。
フィオレのその行動によってか、はたまた自分の名を呼ばれたことに気付いたからかは分からないがとにかく、スネイプはずいぶん長いこと動きを止めていた。


「―――……な、……何かね」

長い沈黙の末にようやく絞り出した言葉も、先程と同じもの。
相当動揺しているらしい。

「あ、ぇゆ」
フィオレはずっと手に持っていた紙袋をスネイプに差し出した。
ブラックチョコ一つだけ入れるには些か大きすぎる気もするが、その理由については少し話を遡ってもらえば分かるはずだ。

スネイプはそれを受け取り、困り切った表情でフィオレを見下ろし、やがて顔を上げてこちらを向いた。


「それ、こいつが迷子になった時に厨房から貰ってきた品らしくて」
「私達と…それから、何故かスネイプ先生にも」
「…」

スネイプは、ゆっくりした動作で紙袋の中を覗き、中から小さなブラックチョコレートを取り出した。
――どうする、だろうか。
食べずに突き返される可能性も十分にあったが、数秒悩んだ末、スネイプはそれを口に含んだ。
フィオレは嬉しそうに飛び跳ねて、もう一度スネイプの足に抱き着く。


「…確かに、受け取った」
「ねぇいぷ!…まぁいー?」
「……ああ。美味かった」

スネイプは屈んでフィオレを抱え上げると、無表情のままナマエに渡した。そして「さっさと戻りたまえ」と言い放つとマントを翻し、早々に研究室へと引っ込んでしまったのだ。

***

「ふふ…!先生、すごく照れてましたね、きっと」
「ああ。今日は面白いものが見れた」

上機嫌に笑ったドラコは、次の魔法薬学の時間が楽しみだと、心の中でそう呟いた。

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