王子は顔を戻して、席を立った

女の子の置いて行ったパイを、一つつまんで食べてみた

それがあんまりにもおいしくて

甘くて

シナモンの香りがして

王子はすぐに女の子のことが好きになった

王子が女の子を連れてくるように大臣に言うと

女の子は間もなくやってきた

女の子は、王子様がアップルパイをたべてくれたことが嬉しくて

にっこりほほ笑んだ

王子と女の子はとても仲が良くなった。



またある日

女の子が王宮へ遊びに来るのを、王子が窓から外を見ながら待っていた。

すると

いつぞやの3人のうちの背の高い方の男の子が

女の子に話しかけているのが見えた

しばらく何か言葉を交わして、男の子が笑う

するとつられて女の子も楽しそうに笑った。

王子にいつも見せていた

王子は自分だけだと思い込んでいた、あの笑顔



王子は怒った。

怒って、城中の色んな物を壊して

怒って、女の子にひどいことを言った

女の子は

初めて会ったあの時よりも悲しそうな顔をして

泣きながら部屋を出て行ってしまった






王子は塔のてっぺんにのぼって、うまれてはじめて後悔した

だから王子は自分に呪いをかけた

そして、城の裏側の、深い深い森へあるいていった


茨のとげが引っかかって紐がほつれたら

自分で縫ってなおしたし

寒くなったら銀杏の木の葉の下で眠った

王子はすっかり汚れたけれど

まだ城に戻りたくはならなかった

女の子に会って

何を話せばいいかわからなかったから
王子は奥へ奥へとすすんだ、
そして





「……あー?」

ベアがページをめくるとそこには何も書かれていなかった

その次のページも
そのまた次のページも

フィオレは絵の描かれている最後のページへ戻った。そして森の奥へ姿を消していく、呪われた、王子の姿に人差し指をおく。
その後ろ姿をフィオレは確かに知っていたから。
絵から離れた人差し指は、そのままベアに向いた。

「……ベア?」

そう、ベアは絵本の中から出てきた王子様だったのだ。

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