その絵本に文字はなく、挿絵だけで物語は進んでいった。
始めのページに描かれていたのは森の中に佇むお城
椅子に深く腰かけて、ふてぶてしく足を組んでいる金色の髪の王子様
王子は傍らで膝をついている大臣に命じた
たくさんのお菓子を用意しろ!
すると、王子の目の前のテーブルはお菓子でいっぱいになった
王子は喜んだ
王子の部屋の窓からは
男の子がふたりと、小さな女の子がひとり中を覗いている
それに気づいた王子は、いじわるそうに笑った
そして三人の前で次々お菓子を平らげてしまう
これはみーんなぼくのだ。おまえらなんかに、あげないぞ
そして王子は大臣に命じて、三人をお城から追い払ってしまった
ある日王子のところへ一人の貧しい女の子がやってきた
わたしの家でとれたリンゴです。どうぞ王子様
王子は顔をそっぽに向けた
そんなもの、いらないね
女の子は悲しそうな顔をしたが、思いついたように部屋を出て行った
一時間ほどして戻ってきた女の子は
手に焼きたてのアップルパイの乗った皿を持ってやってきた
どうぞ、王子様
王子はおどろいたが、またそっぽを向いた
いらない。ぼくはそんなもの、ほしくないんだ
女の子はまた悲しそうな顔をして、パイをテーブルに置くと、走って出て行ってしまった
「っ、あー!うー」
フィオレはそっぽを向いて口をとがらせる少年の絵を、バシッと叩いた。
ベアはそんなフィオレをなだめて(ベアに表情があったなら、きっと苦笑しているはずだ)、またページをめくった。
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