その頃、フィオレとベアは厨房の前に立っていた。
「べーあ、うー」
こくりと頷いたベアは絵画の梨をくすぐってみせる。すると数秒後、ギギイと音を立てて厨房の扉が開いた。中からふんわりと漂ってくる甘い匂いに、フィオレは大喜びした。
「おお、お客さまだ!」
しわがれた声がはるか下から届く。
「お客さまだ!」
「大きなクマと、小さな女の子」
「お客さまだ!さあ、お菓子を用意せねば」
「さあ、暖かいミルクを用意せねば!」
「お客さまをおもてなしだ!」
口々に騒ぎ出した屋敷しもべ妖精たちをフィオレはベアの頭の上からじっと見下ろす。フィオレは彼らの姿を見るのが初めてだった。
ベアはそんなフィオレを見て、その小さな体を自分の頭の上から降ろす。
急に近くなった屋敷しもべ妖精たちに驚いて、フィオレはベアの足に隠れた。数秒の間だけ。
「これをどうぞ、食べてごらんなさい」
「さあここに座って」
「わたあめもある」
「チョコレートも」
「クッキーもある」
「好きなものはなんですかな?」
座らされたテーブルの上には目を輝かせるようなたくさんのお菓子。それに囲まれたフィオレは歓声を上げて、その一つを手に取った。チョコレートだ。
「ち、こえーと」
「…」
「ベア。ん!」
フィオレに差し出されたが、ベアは首を横に振って答えた。
残念そうにそれを自分の口に入れるフィオレ。
百味ビーンズより一回り大きいサイズのそれは口の中でパチンと弾け、とろりとした甘味だけを口に残して消えてしまった。
「あー」
次にフィオレが目につけたのは綿菓子だ。
「べあー、ふわふあ」
「…」
「…あー?」
これにも首を横に振って答えるベア。フィオレは再び残念そうにして、自分でそれを口にした。
次のお菓子に手を伸ばしかけたフィオレの頭に、この前ナマエに言われた言葉が浮かぶ。
『だめですよ?フィオレ…あんまりお菓子を食べ過ぎたら虫歯になってしまいますから』
むしば、が何かは分からなかったフィオレだが、お菓子を食べすぎることは良くないのだということは分かった。
伸ばしかけた手を引っ込めて、その代わりに、テーブルに置いてあったフキンを一つもらうことにした。真っ白で綺麗なフキンだ。
「ま、ぁま。ぱー、ぱ」
広げたフキンの上に二つ、チョコチップクッキーを乗せる。
「ぉん、あーりぃ、ハーぁにー」
それから小さなホワイトチョコレートをみっつ
「ねぇいぷ…」
大きなビターチョコ
「べ、ーあ!」
最後にカラフルな包装紙につつまれた飴玉を乗せた。満足そうに笑ってフキンの端を結ぼうとするフィオレだが、中々うまくいかない。見かねたしもべ妖精が代わりに紙袋を持ってきてくれた。
「て、んーきゅう」
「どういたしまして」
もらった紙袋にフキンごとお菓子を詰めたフィオレは、もう一度お礼を言って、ベアと共に厨房を出たのだった。
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