す、すいません、ぶつかってしまって。あの…お怪我は
…無い。穢れた血如きが気易く僕に触るな
――その声は、もしかしてドラコ・マルフォイくんですか?
「…ああ!ドラコ、よかった…目が覚めたんですね!」
「………ここは」
掠れた声で尋ねたドラコに、医務室ですと答えた。ドラコはしばらく考え込んで、ばっと起き上がった。
「怪我、しなかったか!」
「はい」
「フィオレは?」
「大丈夫です。ほら、」
ナマエがドラコの脇のベットを指差す。
そこにはすうすうと寝息をたてる我が子がいて、ドラコはほっと安堵の息を吐き出した。
「わたしもフィオレも無事です」
「…そうか」
「ドラコが、護ってくれたから」
「ぼくは……ナマエ?」
ぽたり、ぽた
「どうして、君が泣くんだ?」
こわかった。
ドラコが血だらけで目の前に倒れた時、よくない考えだと分かっていたけど…でもドラコが――
ドラコが死んでしまうんじゃないかと思って。
睫毛が揺れて、
薄青色の瞳と合った時
どれほど
わたしがどれほど、安心したか
「よ、かったぁ…ドラコ、いき、てて」
「…勝手に殺すな」
「ごめんなさい。でも、本当に出血が酷くて、わたし」
ナマエの睫毛を、ひとつふたつと涙が乗り越えた。ドラコはそっと腕を伸ばして指先でそれを拭う。少し赤くなった瞳を見つめると、ナマエはやわらかな笑みを浮かべてみせた。
「ナマエ」
ドラコはナマエの腕を引き寄せて抱きしめた。弱弱しくも、抱き返す力が愛おしい。
だからか、今まで内側で燻ぶっていた名も知れぬ魔法は、するりと想いを言葉に変えたのだ。
「…きみが、好きだ」
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