昔のドラコであればこんな状況は心底楽しみ冷徹に笑い、ショーをするかのように大仰に振舞って見せただろうが、今この時点でドラコは無表情だった。
「どうしたんだ、ドラコ。ポッターじゃないからやる気が出ないのかい?」
「それはあるね」
「どっこい、こっちはやる気満々さ。おれの奥さん、グリフィンドールでも一番人気の子なんだ」
ザビニはドラコにしか聞こえない声で囁いた。
「きみも上手いこと捕まえたみたいだけど、ここらで男らしいとこの一つも見せないと愛想尽かされちゃうぜ」
そんなザビニの挑発にも耳を貸さない。
今のドラコの頭を占めるのは、最前列で心配そうに眉をひそめるナマエの事だけだった。早く、終わらせよう。あいつのあんな顔、長く見ていたいものじゃない。
「杖を構えて。始め」
「エクスペリアームス!」
「うわ!!」
ぶわりと後方に飛んだザビニ。やがて彼は腰をさすりながらゆっくり起き上がりドラコに杖を向けた。
「オパグノ!」
無数のコウモリが一直線に飛んでいくのを、ドラコは寸前で避ける。それを見てさらに頭に血が上ったザビニはすっかり逆上して声を張り上げた。
次に何を仕掛けてくるか大方の予想ができていたドラコは、ザビニの呪文を発する口の形でそれを確信し、避けるために視線をあたりに配った。
そしてある事に気付き、動きを止める。
「、待て」
「ディフィンド!!(裂けよ)」
盾の呪文は、呪いを周囲に跳ね返す危険がある。その事を危惧した一瞬の隙が、ドラコの決定的な敗因だった。
もう盾の呪文を使ったところで間に合わない。少しでも脇に飛びのけば避けられるだろうが、そんな事をしたらこの先僕は僕を呪い殺さない自信がないんだ。
「くそ!!」
ドラコは杖を投げ捨てて、直ぐ後ろで立ち竦んでいたナマエを抱え込むようにして抱き締めた。切り裂くような痛みが背中を襲ったのも、珍しく焦ったようなスネイプの声が聞こえたのも、その直後。
自分を呼ぶナマエの声を耳に馴染ませながら、ドラコは目を閉じたのだった。
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