「これより実戦呪文に移る。今から指名するものは前に出て……ああ、邪魔な荷物はパートナーにでも渡しておけ」
スネイプ先生の不機嫌そうな声が教室に響く。邪魔な荷物、とは生徒達がちらほらと抱いている赤ん坊のことを言っているのだろう。
「スネイプって子供嫌いそうだよな」
「確かにね」
「ちょっと二人とも。話はちゃんと聞いてなきゃ」
「でもハーマイオニー…実戦呪文なんてほら、ロックハートの決闘クラブと同じようなもんなんだろ?」
「でもスネイプ先生の授業よ?生半可な気持ちじゃ受けられないわ。それに、ハリーだってひどい目にあったじゃない」
ナマエは三人会話を小耳にはさみながら視線を教室の前方へと向けた。
「第一戦目は、スリザリン!ドラコ・マルフォイ対、同じくスリザリン。ブレーズ・ザビニ」
スリザリン同士で争わせるなんてスネイプ先生らしくない。だけど、これもまた先生の意向では無いようで苦々しい表情で事の成り行きを伺っていた。
ナマエはそっとドラコの傍へ駆け寄り、フィオレを受け取った。
「…そんな顔するな」
周りに聞こえない程度の囁き声。
ドラコがそんな台詞を困ったように言うから、わたしは彼の顔を見つめてしまった。
わたし今、どんな顔してたのかな。
「フィオレを頼む」
「…ドラコ」
「?」
「行ってらっしゃい」
時間にして20秒ほど。お互いにしか届かない程度の声の大きさで囁き合えば、ドラコは満足したように頷いて人混みを進んでいった。
私はぼやけている視界をぐっと凝らして前を見つめる。
(何でこんな日に、眼鏡なんて壊しちゃったんだろ)
せめて最前列で見ようと人をかき分ける。ぼんやりと見えるドラコの姿は、堂々としていてかっこよかった気がする。
ドラコが怪我をしませんように、と私はせめて祈ろうと決めたのだった。
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