立ち並ぶ店と店の間。人通りの多いその場所でナマエはにこにこといつも以上に幸せそうに笑っていた。そこかしこから漂う甘い匂いが彼女をそうさせるんだろうな、とドラコはひっそりそう思った。

「きゅあー」


そして彼女に抱かれているフィオレもまた、この場所が気に入ったようだ。

「ドラコ!あっちに、赤ちゃん専門のお洋服を売っている所があり」

ナマエがドラコの方に顔を向けてそう云うので前が疎かになり、彼女は長身の魔法使いとぶつかってしまった。ドラコはさっとナマエを支える。

「ばか。前を見ろよ」
「ごめんなさい」

素直に謝ったナマエからフィオレを受け取って左腕に抱え、もう一方の手はナマエに差し出した。

「もう転ばないように、僕が繋いでおいてやる」


ナマエは一度目をまんまるくさせてから「ありがとう」とドラコの好きな笑顔を受かべてその手を取った。

「冷たいな」
「手袋してきませんでしたから」
「…」

ドラコは握ったナマエの手を自分のローブのポケットに押し込む。
少し驚いた表情のナマエがまともに見れなくて、赤い顔を隠すようにそっぽを向いた。何か言ってやろうかと口を開いたものの、結局ドラコは何も言えずにその口は再び閉じてしまう。


「私、不思議です。前はドラコのこと意地悪なひとだなって思ってたんです」
「僕はスリザリンだしな。嫌な奴なのは当たり前だろ」
「ふふ、それ」
「…?」
「きっと前までのドラコなら自分を嫌な奴だなんて言いませんよ」
確かに。言わない気がする。

「ドラコは私が思った通り……いえ、思ってたよりずっと優しくて、紳士的な人でした」
「…それは前にも聞いた」
「すいません、何だかまた言いたくなってしまって」

変ですね、と困ったように笑うナマエを抱きしめたくなった。こうしているだけで精一杯だというのに。
ドラコは激しく高鳴る心臓に落ち着けと唱えて冷静を保つ。

「ハリー達にも教えてあげたいな」
「いい」
「え?」

「君だけ、知ってればいいだろ」

このほかにはどんな言葉も思いつかなかった。
君が知ってればいい。
僕のこんな内面を誰かに知られたくはないし、知っているのは君と僕だけで十分だと、そう思ったんだ。

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