これまでにない程ぱちりと目が覚めてベットから抜ける。渇いた喉を潤そうとリビングの扉を開けば、先に起きていたナマエがフィオレにほ乳瓶でミルクを与えているところだった。

「おはようございます、ドラコ」
「おはよう」
「お水ですか?」

何で分かったんだ、と目を丸くさせていれば、ナマエはくすくすと笑って「そんな気がしたんです」とまたもドラコの心を読み取ったかのように言葉を発した。ことりと目の前のテーブルにコップがおかれる。

「ありがとう…」
「どういたしまして」


ナマエは気遣いのできる人間だ、とドラコはつくづく思う。思いやりがある人というのは彼女のような人をさすので間違いないはずだ。
日本人ということもあって控え目だが、その謙虚さがドラコは好きだった。


「朝食はどうします?ホグズミートの集合までにはまだ少しありますけど」
「君が行きたいなら付き合う」
「いえ、私は」
「だったら僕も要らない。朝食は多く取らない派なんだ」
「じゃあ準備しましょうか」
「そうだな」

ドラコはナマエに近付いて、その膝上で手足をぱたぱたと動かしているフィオレの額をつついた。きゃらりと愛らしい笑顔が見える。


「おはよう、フィオレ」
「ぁーぱ」
「!…今、パパって言ったんじゃないですか…?」
「…僕にもそう聞こえた」

ドラコは屈んで、我が子にもう一度言うように促す。
だがフィオレは依然興味津津といった様子であたりをきょろきょろするばかりで、再度聞くことは叶わなかった。
それでもナマエとドラコはフィオレが初めて意味の通る言葉を発したことに小さな感動を覚えていた。



「もっと言葉が達者になったら、魔法を教えてやろう!」
「ふふ、気が早すぎじゃないですか?」
「いいだろ?簡単なものならきっとできるさ…!君は何かフィオレにさせたい事は無いのか?」
「私は」
「…?」


「私はドラコが飛んでるとこ、見せてあげたいです」


はにかみながら夢を描くように言うナマエ。
ドラコは、じんじん胸の内がくすぶるような気分になったのも、こんなに抱きしめたい衝動を抑えたのも、初めてだと思った。

こうなってしまったら嫌でも気付いてしまうじゃないか。今まで必死に気付かないふりをしていたこの感情に。

息を吸って、吐き出したい言葉は呑み込んだ。代わりに自分が思う最高の笑顔でナマエを見つめた。

「まだ時間はたくさんあるさ。次の休みには君とフィオレを競技場に連れて行くと約束するよ」

それを聞いたナマエが嬉しそうに頷いたのでドラコはそっと溜息をついた。
ああ、こういうの…きっと生殺しって言うんだ。

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