「成程ね」再び私の向かいに腰を下ろしたリドルは、興味なさそうに相槌を打った。その素敵なお顔には愛想笑いの一つも浮かんでいない。さっきとはえらい違いだ。

「君は僕と同じ年だし、たぶん5年生に編入させられると思うけど」
「そんな!」

私の悲痛な声の先は、嘲笑いながらリドルが続けた。

「1年生の呪文もロクに学んでないのに大変だね」
「…ところで、リドル君」
「君なんて止めてよ。リドルでいい」
「え?トムじゃないの」
「トムなんて呼んだ暁には塵にするから」
「あれぇ!?」


もしかして私がさっきまで対峙していたリドルこそが妄想だったのかな?トムでいいよ。ニッコリ。とかやってた方が夢だったのかな!?
ささやかな現実逃避を試みながらも、私はずっと疑問に思っていたことを口にした。

「リドル…は、何でそんなに態度がでかいの?」
「何だって?」
「間違えた。何でそんなに偉そ、違う…何でそんなに、そんなに…高慢ちき、なの」
「…君の語彙の少なさに脱帽だ」


段々尻つぼみになっていった私の言葉を聞いて、リドルはため息を吐いた。自分でも分かってるけど、何だか適当な言葉が見つからなかったんだよ!あ、いや見つかったけど言ったら言ったで間違いなく呪いの餌食になりそうだったから止めたんだよ!



「君こそ。物怖じせずに僕と話せるようになってきたようだけど」
「順応性が高いんです…ええ。それに」
「?」
「不機嫌を甘いマスクで覆ってるのが不気味で奇妙で怖かっただけだから…イライラが赤裸々なリドルは、正直、あんまり怖くないというか」

言ってくれる。リドルは内心でムッとして言い返した。

「普通逆じゃない?」
「そうなのかも…。ううむ、でも」
「ハッキリしない奴は死ぬべきだ」
「そう言うリドルは死ぬほどハッキリしてるよね。胸が痛いです」


ガタン列車が揺れた。
私はほんの少しだけ前のめりになり、リドルも僅かに傾いた。

「何?」
「あ、や…」

何もかもが完璧で人間離れしているような感覚を、出会って数分で、リドルに抱いてしまっていたわけだが。
汽車が揺れ彼も少し傾いだのを見て、ちょっと安心した。


「リドルも」

人間なんだね。生きてるんだね。
どっちも…なんか違うな


「あー…うん。わたしと一緒なんだね」


わたしと同じ、ふつうのひとなんだね

ハア?って顔をされてしまったけど私はめげない!でもやっぱり自分には少しボキャブラリーが足りないのかな…という気がしてきた。皆にはイントネーションで何となく伝われば幸いだ。




「ダンブルドアは確かに言ったのかい、君が」
「うん…魔法使いだって」

私が答えるとリドルは考え込むようにして、視線を床に落とした。

「僕はこのコンパートメントにちょっとした仕掛けをしておいたんだ」
「しかけ…?」
「ちょっとした、けど強力な。目くらまし術を」


目くらまし術が何かは良く分からなかったけど、私がこのコンパーメントに入った時リドルが驚いた顔をしていたのはその所為だったようだ。


「でも私、何ともないよ?リドルの魔法しっ」
「僕に失敗はあり得ない。現に、君が現れるまで魔法はしっかり作用していたからね」


リドルはじっとこちらを見つめて、口を閉ざした。
私と言う人間を推し量ろうとしているのが分かる。居心地が悪くなって、今度は私から口を開いた。


「そ、そういえば、その棒ってなきゃだめ?私持ってないんだけど」
「杖を!?」
「何か凄いビックリされた」
「僕が断言する…!君は絶対に魔法使いなんかじゃない」
「な、なんでよ」
「杖を棒とか呼んでる時点ですでに終わってる」
「終わってない!」
「煩い喚くな黙れ」
「酷っ!何この扱い」


忘れているようだからもう一回言っておくけど、私と彼が会ったのは今日が初めて。ほとんど初対面。初・対・面!
それなのにリドルときたら私に似非スマイルが通じないと分かった途端にこんな酷い扱いをしてくるのだ。絶対友達居ないよ。…あ。


「コンパートメント空っぽだったのだって実は友達居ないからなんだ!」
「ちょっと止めてくれる?そういう勘違い」
「それが悲しくて実は呪文かけといたんだ僕とか言ってるんでしょ」
「シレンシオ…」
「試練塩?…っぎゃあ、何をする!」
「君一体何者?どうして僕がかけた呪文は君に効かないんだ。言え」
「ちょ、ちょちょ、リドル君顔近い」

急に立ち上がったリドルはあろうことか私の胸ぐらを引っ掴んで引き寄せた。もはや女の子に対する扱いじゃない。その上杖先はまっすぐ私の心臓を狙っている。

「もう一度、聞く」

「(顔近い顔怖い)」
「どうして僕の呪文が君に効かないのか。教えろ、今すぐ」
「何でって言われても」


リドルの魔法が私に効かない?そんなの私が知るはず無いじゃないか!魔法が当たった感覚もなければ、何か変わった様子も一切ないんだから。素直にそう言ったが、リドルは一向に向けた杖を下ろそうとしない。


「は…ハハ。リドルが実はあんまり魔法使えないとか」
「しばくよ」
「しばくの!?」
「言ったはずだ。僕の魔法が失敗したことなんてかつて無いし、これからも当然そうだ」

何だその自信は。と尋ねそうになったがこれ以上リドルの機嫌を損ねるわけにはいかないのでそこはぐっとこらえた。私ってなんて大人なんだろう!


「今まで魔法を使った事がないって、本当は嘘だろ」
「嘘なんて吐いても意味ないじゃない」
「…腑に落ちない事だらけだ」

苛立たしさを隠そうともしないリドル。彼の本性を指摘するのはもっと後の方が良かったかもしれない、と薄々…いやひしひしと、感じ始めていた私だったが、落しかけた溜息はリドルの睨みつけによって飲み込まれることとなった。ごっくん。


「…もう直ぐ、ホグワーツに着く」
「わお」
「君はいつまでその格好でいる気だい?その、紙袋に入ってるのがホグワーツの制服だから、早く着るといいよ」
「急に親切だね」
「同じコンパートメントから降りるんだ。僕まで変な目で見られたらかなわないからね」
「ああ、そうですか」
「…」
「…」
「…え?」
「何?」
「何で堂々と足組みなおしてんの?き、着替えろっていったじゃないか」
「もしかして僕に出てけって言ってる?君から入ったのに?」
「で、でも
「君から入ったのに?」
ぐすっ、いってきます…!」


目元を拭ってコンパートメントを飛び出した私は、後ろで「当たり前だよ、フフン」みたいな顔しているだろうリドルに、いつか仕返ししてやると心に決めたのだった。


(くそう!あんまりじゃねーのドチキショー!)
(わっ、て、ええ!?ナマエ!?
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