のあらすじ。特に何の目的もなく駅に居た一般ピーポーの私・ことナマエは、壁の中に吸い込まれていく(むしろ自分から突っ込んでいく)少年少女を目撃し、唖然としているところをダンブルドアなるおじいさんに話しかけられ、なだめ すかされ壁の中へ。そして電撃的な事実を軽い口調で伝えられて、分けもわからないままに赤い汽車に乗り込み、たぶんおそらく「ホグワーツ魔法魔術学校」という所に向かっている次第である。



ガタタン、ゴトン



「…とりあえず、座ろう」


重たいトランクを引きながら、コンパートメントの中を覗いて空いている席が無いか見ていった。しかし、どのコンパートメントも満席である。
半ば諦めかけたところで、どう言ったわけか一つだけ人気の無いコンパートメントを発見した。
そしてなんと、座席の奥に優雅に足を組んで腰かけていたのは、私が頭の中で勝手に「妄想」と片付けていたあの青年だ。

どうしようか。…いや、でも、このコンパートメントの他に空いている所があるとは思えないし。不自然にスッカラカンなここに入るのも気が引けるけど…。
「…仕方ない」私はすうと息を吸い込んで、スライド式の扉の取っ手に手をかけた。


「あの、どうも、こんにちは」そう声をかけると青年はバッとこちらを向き、驚きを隠せないように目を瞬かせた。…そ、そんなに驚かれるとは!私はたじろきながら言葉を続ける。


「ここしか空いてなくて…ええと、ご一緒しても?」
「…どうぞ」

青年の声は、素っ気ないと言うより、慌てて冷静さを取り繕おうとしているようにも感じられた。私は彼の向かい側にそろっと腰を下ろす。重い沈黙が続き、私は早くもこのコンパーメントに入ったことを後悔し始めていた。

俯いていても、目の前の青年からの刺すような視線はチクチクと感じられる。もういやだ。イケメンと同じ空気吸えるなんて私ラッキー!やっふー!なんて気持ちにはとてもなれない。沈黙が痛い!視線も痛い!もしやこれも魔法とやらの一種なんじゃないかな?「気まずくさせ呪文」みたいな?それにしても私ってネーミングセンス皆無だな


「…君は」
「!!は、はい!」

ビックリしたせいで声がひっくり返った。しかし彼はそれを気にした風もなく、わずかに微笑んで続けた。


「…君は、てっきり、マグルなのかと思ってたよ」
「…マグル?」
なにそれ。
「もしかして、…マグルが何か知らない?」

まるで心を読んだように尋ねてこられて、私は困惑しながらも頷いた。そして私以上に困惑しているらしいのが、やっぱりこの青年だ。


「………君は、スリザリンではないよね」
「ス、スリ…?」
「スリザリンもわからない…?」
「ごめんなさい」

何だろうこのかつてない申し訳なさ!ひたすらに俯く私は、この場を占める短い沈黙にひたすら首を絞められ続けていた。し…死ぬ!
そこで追い打ちをかけるが如く前方に落とされた溜息。ひーえー!ますます縮こまったところでクスクスと笑い声が洩らされる。

「ほら、顔を上げて」
「…え?」

思いがけずかけられた優しい言葉に驚いて顔を上げた。紅い瞳とかち合って、私の全ての機能が一瞬カチッと動きを止めた気がした。

「僕は何も、君を責めているわけじゃないんだ」

も、もしかして

「君が"わからない"と言うことを無理に問い詰める気はないし、きっとホグワーツに着けば分かる事だろうから…ね?ああ、自己紹介がまだだった」

この人


「僕はトム・マールヴォロ・リドル。スリザリンの5年生だ…。よろしくね」

めちゃくちゃ、いい人なんじゃ…!
差し出された右手を凝視しながらそんなことを思う。突然放り出された異世界で初めて会った人がこんなにいい人で良かった!感動を身に沁みさせて、私も同じように右手を出す。――そして、ひっこめた。


「ごめんなさい
無理です、やっぱり…!」


だって、あなたの目はそんなにも凍てついているって言うのに!

(うううー!心臓が痛い!)
(こんなに怖い人と、にこやかな大人の対応なんてできるもんか!)
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