「そろそろだね」

ちらりと腕時計に目をやったリドルが呟く。ん?何が?と一瞬なってしまった私は、そう言えば自分が魔法使いになるんだということを思い出した。ト、トランプタワー侮りがたし…。

「あ、そっか誕生日」
「まさか忘れてたの?さっきあんなに不安げだったくせに」
「へへ、おいら寝れば忘れるたちなんでね」
「君今寝てないだろ」
「だがしかし待たれい。今最後のペアを、ーーーーー!!!!」

リドルが足を組み替えた風圧で、私の城はぱたぱたと見事に崩れ去った。
「あ、ごめん」
「っっぅっぜっったい、わざとだぁ!!」
「わざとじゃないよ」
「8段だよ!?並大抵の努力とバランス力じゃ叶わない所業だよこれ!!」
「全く、うるさいな」
「うるさいって何だ!」
「ほら。これで満足だろ」

レパロ、治れ。と杖をひとふり。
倒れたトランプタワーはみるみるうちに姿を取り戻し、更に二段カサ増しされてタップダンスを踊り始めた。

「さあ、12時まであと3分だよ」

戦意を根こそぎ持っていかれた私は、しぶしぶリドルの向かいに腰掛けた。
さっきまで忘れていた緊張が甦ってくる。

「………」
「……あと3分でどれだけ死の呪文が打てるか試してみようか」
「物騒すぎる!」
「君が緊張してるから悪いんだよ」
「そんな理不尽な…………ねえリドル」

そっちへ行って、手を繋いでもいい?

おずおずと尋ねれば、トランプタワーはタップダンスをやめてぱらばら崩れた。
リドルは何も言わない。

「………いやだ」
「がーん!」
「爆発に巻き込まれたら困るからね」
「私爆発するの!?!?」
「嘘だよ。おいで」

リドルの隣に腰かけて手を繋いだ。
彼の腕の時計の針は、残り一分を差している。

「心臓………飛び出しそう」
「止まんなかったんだから出ても大丈夫だよ」
「大丈夫なわけあるかい」
「あと君の手汗ばんでて気持ち悪い」
「ご、ごめん……でも女の子にそういうこと言うのはどうかと思う」

リドルを非難しつつも、心臓のドキドキは収まらない。
楽しみなのと、怖いのとで、どっこいどっこい。ああもう、どうとでもなれ!でも爆散だけはいやです!!

こちょこちょ

「うぶひゃ!!!」

突然私の脇腹をくすぐり始めたリドル。

「あひゃひゃうひ、あはっ、あははは!!!「うるさい」ええっ、!?ははっ、いや!リドルのせい、だよ!!」
「君は緊張なんてする必要ない。むしろ喜ぶべきだ」
「な、何で」

リドルは、手汗が嫌だなんだと言っていたくせに、私の指に指を絡めて首を傾げた。

「君が魔法使いになるその瞬間に、目に写るのが僕で光栄だろう?」

あまりに自信満々に告げられるものだから、私もおかしくなって笑ってしまった。
それを言うなら、私が魔女になる瞬間に立ち会えるリドルだって相当な幸運者だよ!

返そうとした言葉が口に出来なかったのは、丁度そのとき針が頂点に重なったためだ。変な浮遊感を感じたすぐあと、私は意識を手放した。
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