「皆さん初めましてミョウジナマエです。好きなものはミカンとスルメです。好きな映画は奥様は魔女です。宜しくお願いします。………よし、これでいこう。無難にね」

大広間の前で何度口にしたか分からない自己紹介を唱える。今は中で一年生の組分けが行われているから、その間私はここで待機だ。
それにしても、広い。
天井高い。

「これはドッヂボールできますなー」
「ではボールはこれをお使いになってはいかがか?」

不意に後ろから声をかけられる。
「え?いやいや冗談で、す…………」

ニチャ、と嫌な音がして、私に声をかけた人物の首がもげた。ええ、もう、ほとんど完全にもげた。切断面から骨と肉とが垣間見えた瞬間、私は絶叫しながら広間に駆け込んだ。

「ああっ、レディ、すみませんほんの冗談で」
「ぎゃーーぁぁあ!!!追いかけてくる!!追いかけてくる!!やめて来ないで食べないで!!!」

涙で歪んだ視界の隅で、ガタンッ、と立ち上がった人物ーーああ、リドルだ!
視認するや否や彼に駆け寄り、その勢いのまま首にしがみついた。
「リ、ッリヒリリ、おっ、おばけが!!おばけの首が」
「……っナマエ…落ち着いて。苦しい」
「え、あ、ごめ、ん」

リドルから離れ、(とは言ってもローブは全力で握りこんでる。親の敵といわんばかりに)おそるおそる後ろを振り替える。

後ろにおった。

「うっうう、私……知らん間に霊感体質になったみたい。リドル。首のもげかけたふくよかなおっさんが視えるよぅ……」
「大丈夫。僕にも見えてるから」
「え……?」
「彼の名はサーン・ニコラス。グリフィンドールのゴーストだ」
「驚かせて申し訳ない。以後、お見知りおきをどうぞ」

ベチャリ、
頭を下げられるとまたも首がもげる。ひいっ!頼むからもう動かさないで!主に首から上!

「ナマエ、それより君、前にいかなくていいのかい?」

リドルは襟元を直しながら私を見下ろした。その表情は優しげで、面倒見が良さそうで、紳士的で、ようやく私は自分が大衆の面前にいることを思い出したのである。

「ちょうど今、ダンブルドア教授が君の紹介をしていたところなんだ。さあ、行っておいで」
「ほ、は、はひ」

猫被りまくっているリドルにツッコむこともできず、促されるままに歩き出す。別れ際、「幸運を」と告げられたことは覚えている。


「ほほ、盛大な登場じゃったの」
「す、すみません」
「かまわん、かまわん。ーーーさあ諸君、彼女が今わしの紹介中じゃったナマエ・ミョウジじゃ。編入制度が活用されるのは、ホグワーツ史上初めてのこととなる」

生徒達の注目を一身に浴び続けている私のメンタルはもはやお豆腐だ。
「ナマエ・ミョウジです……!え、えええと、好きなミカンはスルメで、好きな魔女は奥様で、よ、よろしくどうぞ……!!」

首なしゴーストに追いかけ回されたことも相まって、練習完璧だったはずの自己紹介の文は以上の通り、スルメ味のミカンとマダムが好きな変なやつになってしまった。

やれやれと手で顔をおおうリドルが見える。
頭を覆いたいのはこっちのほうだと言うのに。

「それでは、そろそろ組分けの儀式に入ろうかの」

組分けの儀式。
胸をばくばく言わせながら椅子に腰かけると、頭に古びた帽子がのせられ「古びた帽子とは言ってくれる」
ぼ、帽 子 が し ゃ べ っ た。
私の驚愕に勝る驚愕などほったらかしで帽子は続けた。

「ふむ……難しいの。頭の中は未来への希望と勇気で満ちみちておるが、その一方で思慮深く、また野性的な一面も備えておる」
(ああ、木へ飛びうったりとかか…)
「さらに自分の欲求に忠実だ。ふぅむ、なになに、睡眠は一日八時間……食事は、なんと、一日に間食含め5回とは、それでよく太らないものじゃ。なに?甘味と塩気は交互に。チップスより塩辛とはまた、若いのにずいぶんと通な」
「ちょ、え、あの、もうそのへんで……!」
あなた今とんでもない勢いで私の個人情報(かなりメンタル寄り)漏洩してますからね。私一瞬にして全校生徒に干物女子と定義付けられたからねきっと。

「ふむ……とっさの判断力、思考の傾向はスリザリン寄りだが、決断力と行動力はグリフィンドール……悩ましい、実に悩ましい!」
「いやもうほんと、なんでもいいから早く」

ぱちり、リドルと目が合う。
これは私の幸運を願ってるやつの顔じゃない。ひしひしと伝わってくる、グリフィンドールなんかに入ったら許さないよ感。

「……」

私の要望もかねて、帽子が声高かに叫んだ寮は、蛇がシンボルのスリザリンであった。
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