ローに夢を託されたのだからそれを遂げるのは私たちの役目だ。これからすぐに島を出て夜の海を渡り、朝を迎え、また夜を迎えて。いつも通りの日々を送るだけだ。何も変わらない、彼がいなくなって変わることなどありは しない。

「…」



ふと、甲板の上から空を見上げた。夕日に照らされて茜色に色付いた雲の隙間に、白く細い月が見えた。

「…」



ついさっき。

私がローにキスをしたとき、ローの唇はまだ確かに温かかった。暖かかった。
あたたかかった。生きていた。
ローは生きてた。途端、私の中に熱い思い出があふれ出す。




俺は今日海へ出る。俺と来い、なまえ



「ロー」


「海軍の船に見つかったぞ、舵を取れ!」
「おい、ベポ!なまえ!お前たちまた俺の買い置き盗み食いしたな」
「暇なら医学書でも読んでろ」
「ああ、お前らは俺が護るさ」

「、ロー」


「だから安心して、俺について来い」


なまえ






「…………――――っ」

海に飛び込んだ。バシャアアアンと音を立てて白い泡と青が私を包む。完璧な無音の世界で、私は思い切り叫んだ。何度もローの名前を呼んだ。

どうして、どうして…!

死んでほしくなかった、これからもずっと皆で旅していたかった、もっと愛してるって言ってほしかったしキスもしてほしかった。船長になんてなれなくていい。ローがいれば、それでよかったのに。
何も変わらないわけがない。きっと何もかもが物足りなくなる。


「どうして、ロー」


あとからあとから零れ出てくる涙は、海が掻き消してくれた。
私を包むその優しい雰囲気は自分勝手だけど不器用なあなたとそっくりで。それがまたたまらず涙を誘った。


おまえならやれるさ(無理だよ、あたしはあなたのように上手には生きれない)
俺はあいつらのことお前にしか頼めない(…そんなこと)
上手く生きる必要なんてねェのさ。お前ららしく真っ直ぐ在ってくれれば俺はそれでいい(ロー)
任せたぞ、なまえ。

お前は俺が一生捧げて愛そうと、誓った女なんだ。



「……。」


私はすっと海面に顔を出した。それから浜に向かってゆっくり歩き、そんな私を黙って見つめているハートの海賊団全員を一度見渡す。

「ベポ」
「、ア…アイアイ!」

ベポは船にそっと立てかけてあったローの刀とその脇に置いてあった帽子を私のもとへ持ってきてくれた。私はそれを受け取ってから、海に向き直り、鞘ごと刀を砂浜に突き立てた。


「ロー。いま、ここで誓います」

あなたが死んでしまったのは死ぬほど悲しいけど。苦しいけど。私達はその現実の中から希望や光を生み出しましょう。あなたがこの先、わたし達を見失わぬように。ずっと。それから共に夢馳せたこの空の下で


「わたしはあなたを、あなたの魂を


――この先の海へと連れていくと約束します」


太陽がひたりと海に接した時、私は刀を砂浜から抜き去ってローの帽子を頭に乗せた。

「…なまえ?」

伺うような、震えたベポの声が直ぐ後ろで聞こえたので私は振り返って笑う。――今度はちゃんと笑えている気がした。

「ほら、行け…!なまえ」
「…うん」


空耳でもいい。今、確かにローの声が聞こえたんだ。




「…―――――出航!!!」







いつかは、きっと


あのね。なまえ。ほんとうはさっきね、なまえに名前を呼ばれた時。キャプテンがおれの名前を呼んだように聞こえたんだ。

アイアイ"キャプテン"って、言いかけた。

おれはね、なまえ。キャプテンが大好きなんだ。優しくてあったかいキャプテンがほんとうにだいすきなんだ。だからなまえがキャプテンの夢と一緒に生きていくって言うなら、おれたちも同じだよ。一緒に戦う。一緒に護る。

だからひとりでなかないでね


「アイアイ、キャプテン!」
 
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