隙あらば部屋を抜け出してレベル6へ向かおうとする私だったが、署長の用意したトラップによってそれはいつも失敗に終わる。最近は頭のものっそい冴える秘書までつけられた。
「看守に秘書なんているかーい!」って糾弾したら「秘書兼お前の見張りだ馬鹿者」と赤裸々に叫び返された。ヤッパリネ!ダトオモッタ!

「なまえ看守…巡回のお時間です」
「レベル6以外歩き回る気起きない」
「ハァ…もうここへ来て何ヶ月ですか。そろそろ古巣のことは忘れてください」
「古巣とか言うな!あそこは私の家も同然よ」
秘書は私にすっかりまいってしまっているらしい。困れ困れ!マゼランに相談して私をレベル6に戻してもらえ!…そんな願いは叶わない。


そんなある日の話。


「麦わらだ!侵入者、3億の賞金首、海賊麦わらのルフィ!」
「手の空いている人員はレベル6へ急げ!!」

またとないチャンスがやってきた。麦わらが誰かはよく知らないけど、自分からこんな地獄にやってくるなんてきっとアホなんだ。でもありがとう。これで私は心置きなくレベル6に行けるよ。
「私手ぇガラッガラ!行ってきまーす!」
「あ!ちょっとなまえ看守ッ!あなたはダメです色々と!!」
「へっへーん!私はお仕事大好きだからね!ダメと言ってもダメだかんね!」

看守部屋を出ると暑くて暑くてもう耐えられなかった。防熱服着てくれば良かったと思ったけど、まあ愛の力でこの位どうとでもなるわけだ。
さっさと階段を下りようとそちらに向かえば、何故だか砂と化した扉の所には、会いたくて会いたくてたまらなかったあの人の姿が。「クロ、」と名前を叫びかけた時、彼の体の各部分を銃弾が貫通する。私は悲鳴を上げた。


「うわぁあああん!!テメ、ばか!バカヤロー!」
「なまえ看守!?なぜここに!?」
「せっかく、会えたと思ったのに…!何で殺しちゃうんだバカー!!うああん!!」
「勝手に殺すなクソガキ」

すぐ後ろから聞こえてきた腰砕け低音ボイス。
ぴたりと泣き止んで振り返った私が見たのは、体のどこにも穴の開いていない本物のクロコダイルさんだった。(あ…そっか能力者)気付いた途端私はいてもたってもいられなくなって、その腰にぎゅうっと力強く抱き着いた。

「……オイ」
「やです離れません。だって、やっと…会えたんだもんっ」

葉巻の香りがする。どこで着替えたんだか知らないけど、クロコダイルさんの私服はめちゃくちゃお洒落だった。

「脱獄なんて、やめて…、ここにずっといてよ、クロコダイルさん…!」
「それは無理な相談だ」
「…うぅ」
「お前が」
「…?」

「……―――お前がいなくなってから、耳鳴りが煩くてしかたねェんだ」


私が知ってるどんな顔よりも楽しそうに笑ったクロコダイルさんは、私を横抱きに抱え直した。「ぎょえー!」と色気の片りんすら伺えない叫び声を出した私は、慌てて首に腕を回す。(な、何を!?)

「面倒だが、お前は連れてく」
「い、一緒に?」
「ああ。…文句でもあるのか?」

私は一瞬考えた。海賊たちが忌み嫌うこの監獄は私の家だった、マゼラン署長もハンニャバルも皆、良い人たちだ。彼らと別れるのは凄く寂しい。…でも。でもね、

「ない!」

私は満面の笑みで頷いてもう一度抱き着いた。クロコダイルさんは満足したようにフンと鼻を鳴らす。
――私はこの人と一緒にいたいのだ。
一目見た瞬間に、心臓を突き抜けたあの感情が忘れられないから…!


「あ、ちょっと看守室に寄ってから行きます!クロコダイルさんにもらったツルがまだ」
「ンなもん捨ててけ」
「やですよ!初めてのプレゼントなのに」
「…いつでもくれてやる。今は、俺から離れるな」
「!!…はいっ」

そう言ったクロコダイルさんは私を抱えてフロアを駆け抜けた。横には麦わら帽子をかぶった男の子がひとりと、でかい顔のオカマっぽい人がひとり、物珍しそうに私を見ていたから、とりあえず看守帽を投げ捨てて挨拶した。


「私、#name2#なまえ、クロコダイルさんの未来の奥さんです!どーぞよろしく海賊諸君!」



こうして、私達の摩訶不思議な物語は始まり、(元)看守と(元)囚人の恋はこれからも進展したり後退したりしていくわけだが、それはまた別の機会に。じゃあ、署長がおっかないのでこのへんでお開きということで!


間抜けな物語
(クロコダイルさん!なんだか漫画みたいです!)
(そんなんよりもっと良い思いさせてやるから黙って抱かれてろチビ女)(ドキュン!)
 
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