「やです!!やだやだむり!絶対に認めませんそんなの!」
「煩い黙れ。署長命令だ!」
「署長のいじわる!私の儚くも甘い恋がどうなってもいいのね!」
「そもそも看守と囚人の関係は平等であってはならないのだ!それをお前はダラダラダラダラと……とにかく!明日からはレベル4に移動だからな」

それだけ言うとマゼランは足音荒くレベル6を後にした。
くずおれたなまえの目の前にはただ絶望のみが転がっている。人材移動…。こんな時期になぜ。そもそも私小さい時からずっとここにいて、そんでついこの間レベル6の主任看守になったばかりだってのに!しかもレベル4とか何!熱い!ていうかそんなことはどうでもいい。


「ク、ロコダイルさんと、離れ離れになるなんていやだぁああ」
「なまえ、とりあえず鼻水拭きなさい」
「うんジェリー。ズビビー」
「…俺はこんな女に好かれてる自分が嫌だ」

檻のあっち側でいつものようにあぐらをかいて大欠伸をしているクロコダイルさん。監獄の生活にもだいぶ慣れてきたらしい。私との会話も然り。最近ようやくつらつら会話してくれるようになったと思ったのに…!!
私はぐすぐす鼻をすすりながらそちらへ赴いた。

「…クロコダイルさんだってやだよね、あたしがいなくなったら」
まあな、的な返事を期待したが、当の本人は素っ気ない。
「まったく困らねェな」
「うあーん!聞こえないよー!!」
「都合のいい耳だ…」
「くそ、うえっ、おまえらー!明日私以外の奴がここの主任看守になるから、そいつにいっぱい悪口いっていいんだからね!!」
「どんなだよ」
どこかの檻の中からツッコまれた。
「ほら、なまえが主任じゃねェといやだとか、あいつが戻ってこなきゃこの檻の中で殺し合いして困らせてやんぞ!とかさぁあ」
「何で俺達がそんなこと」
「なぁ」
「あんまりだ!この薄情モンどもー!」

うわぁああん、と泣きながらレベル6を出て行ったなまえ。クロコダイルはその背中を見送り、自分でも気づかぬうちに溜息を落としていた。


「あいつは…行くと思うか」
これは隣の牢にいるジェリーに向けての言葉だ。
「…ええ。あの子はあれでも、マゼランの命令に背いた事はないの。……寂しくなるわね」
――寂しく?バカか。
俺は一つ鼻を鳴らしながら目を閉じた。この狭い世界では寝る事ぐらいしかやる事がない。静けさの増した空間で眠りに落ちる途中、クロコダイルはなまえの事を考えた。
あいつがいなくなる。…結構じゃねぇか。静かでいい。







結局あいつはそれっきり戻ってこなかった。大方、逃走中にマゼランあたりに捕獲されたんだろう。バカな奴だ。「皆に挨拶も言えなかった!」と嘆く姿がありありと想像できて笑えた。今朝、エバースに「耳鳴りがうるさくて仕方ないの」と訴えられた。俺もだと思った。


(静かすぎて、煩ェな)
アイツの声の方がまだマシな気がした。
 
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