36


頭のおかしな事を叫んで再び自滅した変態を背負うことにそろそろ嫌気がさし始めた俺。とりあえずソイツは放置して辺りを見回す。

「それにしても…随分と手が込んでやがるな」
「そりゃそうよ。この施設は莫大な資産を投資されて成り立っているんだもの」
「……」


背後から投げかけられた女の声に動きを止める。
(妙だな……。まるで気配が無かった)
眉を顰めながら体の向きを変える。いつからそこにいたのか、突き当りの壁には色の白い女が佇んでいた。



「……ふふ」
「…あ?」
「なぜそんなに警戒しているの?――キャプテン・キッド」
「!」
「それって、とっても無意味なことだと思うけど」
「てめ、!」


足音も無く、また動くふうも無かった女は、瞬きの一瞬で俺の直ぐ傍に詰め寄り、そして、伸ばした右手を俺の胸に置いた。その途端、俺の膝は地面についた。

「……体が動かないでしょう?」
「!!」
「声も出ないわよね。…うふふ」


(この女……何をしやがった…!!)
全身が鉛みてェに重い。片膝をついた状態から、何をしようとも筋ひとつ動かせねぇ。何かで押さえつけられているかのように、声が、でねぇ。ただ
かろうじて動く眼だけで、未だにひっくり返ったままの変態を見やる。


「安心してね。私の能力は、別段あなたたちを殺すようにはできていないから」
「、」
「あなたも10分もすれば声くらいは出るようになるわ」
「!!」

立ち上がった女が体の向きを変える。
(クソ…!!)

「…ふふ、やだわ。そんな顔しなくても、彼女には何もしないわよ」
「…、っ」
「私はね。」



女はなまえの傍に寄り、奴の肩を2、3度叩いて戻ってきた。
「今から30秒後、彼女は目覚めて絶望するの」
「……っ」
「私に夢中になる、あなたの姿を見ることで……ね?」

俺の手が、意に反して女の顎を持ち上げる。妖艶な笑みを浮かべる艶やかな唇がすぐ傍に迫った。

「ふふふ。マヒマヒの実の麻痺人間。私の能力では人を殺せない。……でもね」

「…」
そうか、こいつは

「愛くらいなら、簡単に壊せるの…」

白く長い手が俺の首に回った時、俺は悟った。―――あの野郎の、匂いだ。

「ふふ。そろそろ気がついたでしょ?―――私はハンナ。
 ジェイダーのパートナーよ」

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