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「キッドさん、無線とかなんかスパイっぽいから私好きですよ」
『どうでもいんだよ!!』
スピーカーの向こうでキッドさんが怒鳴る。

『それよりどうだ、順調か?』
「順調っす!強いて言うなら私とキッドさんの関係もまた超順調!ゴールイン間近だなこりゃ」
『間近じゃねぇよ。無駄口叩いてねェで走れ。前何人だ』
「0です!」
『ゼ.....それ道間違えてんじゃねェのか?』
「それはない!だって今1メートル後ろを肉屋のディドゥが走り込んできてるもの!この大会のために20キロの脂肪を脱ぎ捨てた彼は中々侮れません!」
『余裕だなテメェ』
「まあね!…て、アレ!?前方に何か見えてきました!」


『まさかの少女を先頭に、選手達が続々と1つ目の障害物に近づいてまいりました!第一の障害はスプーンレース!』
「しょぼ!!」
『スプーンを両手に一つずつ持ち、テーブルに置いてある卵を乗せて次の障害物の所まで運んでください!!』

本当に運動会みたいだ。
私はさっそく2つのスプーンを持ち、テーブルの上をざっと見まわした。
中身は軽すぎず重すぎず。左右とも黄身と白身の割合、殻の形が均等なものが好ましい。
私は数ある卵から最善の二つを選び抜き、先程と同じ速さで駆け出した。伊達に一海賊団の厨房を任されてはいない。このくらい余裕である。


「ふふふっ、中々やるじゃないかガール」
「…誰」
「しがないコックさ!悪いが勝つのは僕だ!待っててねハニー!!」
「っあ!!しまった抜かされ――」

前をゆく自称コックさんのジャムおじさんのような帽子が風でふわりと落ちた。
「…」
彼がそれを拾っている横を、罪悪感を感じつつも追い越させていただいた。


「勝負の世界だもの…っごめんなさい、許して…!!」
『...…』
「私、あなたの屍を超えていくから!」
『おい。前、見えるか』
「え?…あ!!」

ビニール製のプールの上に平均台が置いてある。近付くとプールの中にはこう、どろっとした緑色のすごく臭い…...即席の沼があった。沼とプールの向こうには割ったタマゴを入れる巨大なボウルが見える。落ちたらドボン。

なるほど。
こりゃ最悪だ。

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