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『最初の競技は〜〜〜』と実況者による長いタメにキッドさんが早くもイラつき始めた。ドラムロールがようやく終わり、実況者の声と共に大型画面に文字が映る。

『障害物競走!』

「運動会じゃねェんだよ!!」
「よ!いいねキッドさん!とばすねツッコミ!」
「テメェは黙ってろ!」

『そう、愛には障害がつきもの!歳の差、身分の違い、血の繋がりや不治の大病!』

「う!」
キュンと胸を切なくときめかせればキッドさんに思い切り変な顔で見られてしまった。

『そんな障害吹き飛ばして!ゴールで待つパートナーのところまで周りの敵を蹴散らしながら突き進んでください!』

会場は早くも大盛り上がり。キッドさんは私と目を合わせてニヤリと笑った。私もそれに習う。

「蹴散らすのはテメェの得意分野だな」

大きく頷いた私はスタート地点に向かって元気よく一歩を踏み出した。

「ええ!誰にも勝ちは譲りませんよ!私達の間にあっていいのは赤い糸だけ!!愛情と根性の狭間で揺れる年頃の乙女の奮闘をしかとその目に」
「早く行け」





『この協議において悪魔の実の能力の使用は一切無し!使用が確認された時点でそのチームは脱落となります!』

これは想定内。
もとよりガチンコ勝負にハンデなどあってたまるか!

『スタート地点には屈強な男達が肩を並べて、スタートの合図を今か今かと待ちわびており……、おや!少女が!屈強な男たちの間に一人の少女が紛れ込んでしまっているようです!』

紛れ込んでるんじゃないよ!!
参加してんだよ!
センター観客席の実況チームに向かって、私は親指で自分のしているハチマキを指差した。

『失礼いたしました!先程の少女は参加者だった模様!しかしあの華奢な少女にこの試練が越えられるのでしょうか…!!おォっと!ここで審判がスタート地点に現れました。いよいよです!』


実況の言う通り、スタート地点の脇の高い椅子に帽子の男が腰かけた。
男は天井に向けて銃をスタンバイする。
(ああ、もうすぐだ)
人垣は高過ぎて私は前に進むことさえままならなかったが、お忘れないように…私には必殺技があるのだ。
私はそっと目を閉じた。


『それではカウントダウン!!10,9,8…』

「(10秒、か)」

『……3,2,1、スタート!!』

空砲が天井に弾ける。私は周りの人間を圧倒させるくらいのスピードでスタートダッシュを成功させることができた。
私にとって一周回ってキッドさんの胸に飛び込むことだけがゴールだ。
10秒あれば十二分に妄想することができる。
妄想イズ動力源!

「ゴールには裸エプロンのキッドさん。ゴールには恥じらいつつ裸エプロンのキッドさん!ゴールには」
「テメェ気色悪いこと唱えてんじゃねェぞ!!」
突然キッドさんのツッコミが耳に飛び込んできた。
「耳いたっ!えっ!何ですかこれ」
「無線だ!テメェの独り言は全部こっちに筒抜けなんだよ!」
「ちょっと!ダメでしょ!!エプロンの紐ほどけてますよキッドさん!!」
「駄目なのはテメェの頭だろうが!まずその妄想とっとと捨てろ」

ハチマキのナンバーワッペンと襟章の「D」(デートモダン島のDだ)は無線機能搭載らしい。ちなみにワッペンが聞く方で襟章が話す方だ。さっき説明されたらしいけどキッドさんに夢中で聞いてなかった。脳内のキッドさんがエプロンを脱ぎ捨てた。雄みのあるボクサーパンツに、私は加速した。

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