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私は足を止めた。
.....どう考えても沼に落ちるなんてそんなの耐えられない!
好きな男の前ではいつだって綺麗なお姫様みたいな姿でいたいって、かの有名なエリザベスちゃんも言ってたもの。泣けたもの!同感だもの!
沼に落ちるなんて絶対いやだ!!

《おーっとどうしたことか!独走中だった彼女がついに足を止めたぁぁぁ!背後から次々に選手が追い付いてきます》

『おい!何突っ立ってやがる』
「キッドざん…」
『あ゛ぁ!?』
「あた、あたし、できない…...」

本当はさっき、スクリーンに映った私とキッドさんを見て、私は少し浮かれたのだ。
白を基調としたシンプルなドレスローブは、キッドさんの黒いスーツによく映えていたから。

「こんなに綺麗な服、なかなか着れないし、せっかく、.....せっかくキッドさんと」
『…馬鹿野郎が』


私はぶわりと盛り上がった涙を惜しみ無く流しながら唇を噛み締めた。
私を追い越していった選手達が異様にふらついて沼に落ちていくのを見ると、さらに決心が鈍る。

『情けねェこと抜かしてんじゃねえ』

ぴしゃりと言い放つキッドさん。私の涙もぴたりと止まった。

『海賊が穢れを厭うな!』
「...…キッドさん」
『』

キッドさんが無線に怒鳴り付けている様子が頭に浮かんだ。しかし、その言葉に怒りの色はまるで見えない。
諭すように。力強く。

『やってみせろ。テメェならできる』
「…!」

私の心から迷いが消えた。

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