「先生は、初めて私に会った時のことを覚えてますか?」

校長室に通された私の前には、沢山お菓子の盛られたテーブルがあった。初めて入ったけど、素敵な部屋だ。

「ほっほ、覚えておるとも」
先生は頷く。
「目をきらきら輝かせた女の子が学校の前で、少し不安げに、でもその数倍も期待に胸を膨らませて立っておった」

ダンブルドア先生の目には、私はそんなふうに映っていたのか。そう思うと照れ臭くて苦笑してしまう。


「あの時先生は、私が来るのを知っていたんですよね」
「ふむ…そうとも、違うとも言える」
「難しいのは無しですよう」

先生は半月眼鏡の奥で目を細めると、私の心境を覗くように尋ねた。
「もし知りたいと望むそれが、君の求めた答えと大幅に異なっても、――君はその事実を受け入れられるかね」

私の知りたい事実。
私の望む、答え、

「受け入れます」

それが例えどんなに、目を背けたくなる現実でも。

「受け入れて、それから欲しい未来を奪いにいきます。だって私、もうどちらでも大切な人ができてしまったから」

先生は驚いたように目を丸めた。
やがてその顔には、僅かな安堵を滲ませた微笑みが浮かぶ。

「そうか……。わしの、嬉しい誤算じゃな」
ぽつりと零された言葉の真意を問う前に、先生は私を手招いた。憂いの篩を前にしてしまえば、その意図も掴め覚悟が決まる。

「わしは夢の中で少女に出会った」

戸棚の奥から取り出した小瓶を、篩の上で傾ける。細い金色の糸が篩に落とされるのを見て私は胸が震えるのを感じた。
(懐かしい、…なんだろう)

「彼女の名はユニ。――――知っておろう。君の、大切な幼馴染じゃ」
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