「ヴォルー、ゴリラ、チンパンジー!」軽やかなステップを踏みながら廊下を歩行していた私は曲がり角で顔面から誰かと衝突してしまった。少女マンガか!と心の中でツッコむ。
これで相手がイケメンだったら100点満点。
鼻をさすりながら上を向くと、長身の青年が無表情でこちらを見下ろした。イケメンだった。

「100点満点パーフェクツ!」
「……は?」

***


午前の授業を終えた僕は談話室へ戻ろうと廊下を歩いていた。春特有の生暖かい気温を肌で感じながら、不意に昨日の出来事を思い出す。

用があって図書館に向かっていた僕は、同じく図書館へ向かっているルシウス先輩と会った。
「やあ、レギュラス」
「こんばんは」
「君も図書館に?」
「はい」
「では行こう。丁度君に勧めたい本がある」

ルシウス先輩は博識だ。それに由諸正しいマルフォイ家の血筋だし、僕にとっては常に憧れである。
そんなルシウス先輩と並んで歩いているのはとても緊張する。
それでも粗相の無いように会話を続けているとすぐに図書館へ着いた。
扉を開けて中に入る。
真正面に見えた集団を目にした途端、ルシウス先輩ががくりとくずおれた気がしたが、次の瞬間にはいつものスマートな立ち姿になっていたので、たぶん気のせいだと思う。

「すまない、レギュラス…本はまたの機会に」
「どうかなさったんですか?」
「いや…ただ少し眩暈がしてな」
「い、医務室へ送りましょうか…?」
「大丈夫だ。では」

一刻も早く立ち去りたいと言わんばかりに遠のいていくルシウス先輩。
僕はその背中を見送ってから、後で見舞いの品を送ろうと心に決め図書館に足を踏み入れた。


「ほへ?なんでココでその薬品使うの?それって水を黄緑色にする為に使う奴でしょ」
「「馬鹿か」」
「うわ。まさかのハモりだ」
「俺の真似すんなよスネイプ」
「僕の台詞だ」

1つの机でガヤガヤと煩い集団の中に、よく知った顔を見つけた。
ひとつは兄のシリウス。
もうひとつは、先輩のセブルスだ。
二人の(というか、セブルス先輩と兄の仲間4人)関係が芳しくないことは最早ホグワーツで知らぬものはいない。
だが、何だこの光景は。

「ちょっとスネイプ、そこのチョコレート取ってくれない」
「自分でとれポッター。僕は今忙しい」
「なまえには俺が教える」
「元からこいつを教えてたのは僕だ。しゃしゃり出るな、ブラック」
「リリー、ここ分かる?」
「ええ。でも自信がないわ、それでもいいかしら?ピーター」
「いいよ。ありがとう」
「ちょ、どうでもいいから早くこの謎を私に教えて」

自分の教科書を叩きながら教えるセブルス先輩に、羽ペンを手に何やら複雑そうな文字を連ねている兄さん。正直、有り得ない光景だった。
僕は何もせずに図書館を出た。

二人があんなに必死になるなんて、頭を抱えていたグリフィンドールの少女は何者なんだろう。





「…?」

角のあちら側からおかしな鼻唄が聞こえてきたかと思ったら、ドンッと衝撃が胸元にあたる。
淡い栗色の髪は、光の加減で金色に靡く。
鼻をさすりながらこちらを見上げた彼女は、ちょうど今、頭を巡っていたその人物だった。

「…100点満点パーフェクツ!」
「……は?」

彼女、言葉通じるかな。
そんな不安がどこからともなく頭をよぎった。
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