「そいでさー、ルシウスが勝手に部屋入ってくるからさー、私もブチギレたろうと思ったわけよ、でもね」
「…一つ聞いてもいいか」
「どーぞどーぞ」
「僕たちは何でこんなことしてるんだ?」

セブルスと私は、巨大イカとか奇妙な生物が存在している湖の傍の木陰で…ぐだっていた。文字通り、ぐだーっとなっていたわけだ。
この状態に至るまでの説明は面倒なので省略させて頂こう。



「何か月ぶりに会うセブルスが廊下を歩いていたから、とっ捕まえた次第である」
「僕は昆虫か何かか」
「ほんと久しぶりだねぇ、セブルス」
「無視したな」

木の根元に寝っ転がった私と、一人分の距離を開けて腰を下ろしているセブルス。
ダイアゴンで親切にしてもらったのが遥か遠い昔のようだ。

「あの時はあんまり話せなかったから、また会いたいと思ってたの」
「……その割には会いに来なかったじゃないか」
「え?」
「ポッター達とつるんでるのを、よく見かける」

眉を寄せてぼそぼそ告げるセブルス。
しかしなまえからの返答がいくら待っても来ないため、怪訝に思ってそちらに目線を移した。ぎょっとした。


「な、なんだその微笑ましい顔!」
「いやぁ」
「いやぁじゃない。すぐに止めろ!」
「だって…ああ、もう、セブルスってスリザリンの化身だよね」
「どういう意味だ!」


会いに来てほしかったならそう言えばいいのに!もしくは自分から来るとか…性格上それは考えらんないけど。
でも…よかった、あれっきりだったから忘れられてないか心配だったし。

「元気でなによりだよ」
「…相変わらず」
「かわいい?」
「頭のネジが吹っ飛んだ奴だ」
「カッチーン」

セブルスは、よいしょと言って自分も草に寝転んだ。
私相手に警戒心を剥き出すなんて疲れるだけだと分かってるあたり、セブルスも潔いところがある。

「ルシウス先輩が…お前の話をする」
「ふうん」
「口煩くて我が儘で意味不明な事ばかり口走っていて見た目もバカっぽいと嘆いてる」
「おーい。私隣にいるんだけどなー?悪口…モロ聞こえだよー」
「勉強が全く出来ないのも悩みの種らしい」
「へぐっ」
「それと、お前といると」

「何となく、肩の荷が少し下りる気がするのだ。……自分が悩んでいたことが途端に馬鹿らしくなってな…」
「肩の荷が…ですか」
「…つまり、居ればいるで煩いが、居なくなるとやや物足りなさを感じる」



「私といると?」
考え込んだセブルスの顔をなまえが覗き込んだ。

太陽からの日差しを背中に受けたなまえの髪が、金色に揺れる。思わず見とれたセブルスだったが、ハッとなって言葉を紡いだ。

「お、!お前といると、疲れると」
「さ、最初から最後まで悪口やんけ!ルシウスあんにゃろ」
「違う…っ」

前に一度会ったきりの彼女に、僕がこんなことを言う必要があるのか。
そもそも声をかけられたって無視すれば良かったし、腕を掴まれたなら振り払えば良かった。それだけの事を…何故、できなかったのか。

――自分が悩んでいた事が、とたんに

「……、」


セブルスは口ごもりながら「悪口じゃ、ない」と、か細く告げた。
なまえは真顔で数秒黙ると、やがて、口元をふよっと持ち上げて笑った。

「そっかぁ」

まるで全て理解したかのように。何もかも、見透かされているような気さえした。


「まったくもう、ルシウスもセブルスも皆してデレ下手なんだから」
「…デレベタ?」
「でもそこがイイ!ってファンも多くいるから大丈夫。安心して!」
「何をどう安心しろと…」
「あ、話変わるけどセブルス。来週提出の魔法薬学の課題写させて?全面的に」

ぺろっと可愛らしく舌を出して見せたなまえだったが、頼んでる事があまりにも図々しかったためセブルスは容赦なく頭を叩いた。

「な、何でよ!良いじゃんか別に。セブルスの得意教科だし」
「だから何……って、何故それを知ってるんだ!」
「あ…愛ゆえだよ」

前にも聞いた覚えのあるフレーズを口にして、なまえは立ち上がった。

「明日の放課後、図書館でまた会おう!」
「お、おいこら!僕は行かないぞ!」
「きーこえーませーん!」

耳を塞いで駆けだしたなまえ。あ、あいつめ…!どこまで自分勝手なやつなんだ!と信じられない気持ちで見つめていると、だいぶ遠くで止まったなまえが振り返って、こちらに大きく手を振ってきた。

「…」

セブルスは周りを視線で確認してから、ほんの少しだけ手を振り返した。
なまえは満足したように頷いて、校舎の方へと戻っていった。

――居ればいるで煩いが…

「確かに、少し物足りない」

ぽそっと呟いたセブルスの声は、誰にも届かず春日の空へ溶け込んでいった。
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