ギックーン!!!私は自分の失言に今更気付き、身を固くこわばらせた。
(やっば!やばいよどうしよう)
そんな私の動揺に仕掛け人たちが気付かないはずもない。

「誰なんだい?その卿って言うのは!」
ツッコんでくるなよモジャ毛!
「まさかお前、例のあの人って言うんじゃないだろうな?」
どんだけ鋭いんだ!犬か!…犬か。
「な、何それ誰それ!違うよ!あたしが言ったのは…ほら、トップハムハット卿だよ」
「「誰だよ」」


某機関車絵本シリーズに出てくる鉄道局長のお名前を拝借してしまった。
で、でもなんとかごまかせそうだ。

「一時期マルフォイ家でお世話になってた時よく遊びに来てた魔法使いで私すっかりその人になついててさぁ、いやぁ今元気にしてるかなぁ?ハット卿」
「ノンブレスだったね。大丈夫?」
「うん…」
「マルフォイの奴らがつるむって事は純血だろ?…そんなのいたっけなァ」
「し、シリウス君!世の中君の知らないことばっかりざますよ!世間なめんなァ!」
「何キレてんだ」

それから数分間トップハムハット卿について詳しく説明していれば、彼のハットについていたテントウムシの話をしかけたころでようやく信じてもらえた。
私は心の中で盛大な溜息を吐く。あー…あぶね。


「例のあの人って言えば…なあ、聞いた?」
「ああ、ノクターンでの目撃情報だろ」

ジェームズの問いに、シリウスは興味なさげに欠伸をしながら答えた。

「ノクターン横丁……?目撃?」
「なまえ知らねェの?」
「ホグワーツ中が一時その話題で持ちきりだったじゃないか!」
「パッドフット、ブロングズ、その頃なまえはまだいなかったよ」

苦笑して言うリーマスに、二人は目をきょとんとさせた。

「あ、ああ!そうか。そうだった!」
「お前馴染みすぎなんだよ!普通に入学当時から一緒にいたような雰囲気出しやがって」
「えええ…どんな責任転換それ!?」
「でも、ほんとね」

リリーは不思議そうに言った。

「あなたがこの前編入してきたばかりだなんて思えない」
「褒めてる?」
「ええ」
「ありがとう」

ホグワーツに来てからまだ1週間も経っていないのにこの扱いなのは、きっと彼らと居る時間が殆どだからだろう。そして当然、彼らの親しみやすさも一つの要因に違いない。



(ねえ、卿)
私は心の中で、そっとヴォルデモートさんに呼びかけた。

今私とっても楽しいよ。
いつ帰るかなんて決めてないけど、ホグワーツ生活を満喫して、卿に会いたくて会いたくてたまらなくなったら勝手に帰るから、心配しないでね。
あ、そうだ、今度また手紙でも書いてみようかな。

私は、ルシウスに綺麗なレターセットを貰うことを心に決めた。



「ところでさっきの話。ヴォ……例のあの人はノクターンで何してたの?」
「トイレットペーパー大量購入してたって」
「!!!」
「まァ、ガセネタだろうって魔法省の見解に皆賛成してるけどな」
「な、なんで?」
「なんでもその時、フードかぶった女の子が一緒にいたらしいんだ。その女の子の話がまた奇妙でね」
「き…奇妙、といいますと」

ジェームズは人差し指を立てて言った。

「大量購入したトイレットペーパをその男に投げつけてたんだって。で、その時にフードが取れて、闇の帝王の顔が見えたらしいよ」
「でもその証人…たくさんお酒を飲んだ後だって聞いたわ」
「だから確証がないのさ」
「ガセに決まってんだろー?もし仮にそうだったとしても、その女の子が殺されてねぇなんてありえねーし」
「そうよね。やっぱりガセなんだわ…。なまえ?どうかしたの?」
「や、なんか急に手汗がハンパなくなって…」
「手汗が!?」
「ちょ、あ、ぽ、ポンフリーんとこ行ってくるううう!!」
「え?ちょっとなまえ――」

転がるように談話室を飛び出して廊下を駆け抜けた。

ゴメンみんな!それ事実です。

(だって卿が私の貧乳をこれでもかってくらいバカにしてくるから……)
(それとシリウス!あたし殺されてないけどゲンコツは食らったかんな!)
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