ヴォルデモート卿のお屋敷には何人もの死喰い人が居た。デスイーターと呼ばれる彼らはただ無言で屋敷を徘徊する事が多い。否、殆どそうである。屋敷に居る過半数が死喰い人であるがために、この屋敷は常に静寂に包まれていた。




「ぎゃああ――――っ!どわっ、ヴォル、あうち」
「貴様丸焦げにしてくれる!」

どだだだだ、と部屋から転がり出してきたのはこの私!ぎゃっ……!!危ねえっ!さっきまで自分が居たところについた赤い閃光の焦げ跡を見て青ざめた。

「ななな何でそんなに怒ってるわけ――!?」
「そんな事貴様が良く分かっておろう」
「し、知らん」
「じゃあそのまま死ね」
「ぎゃあールシウス―――!」


私何したんだっけ!思い出してなまえあなたの命にかかわることなの!がんばればんがれなまえ!諦めないで掘り起こせ!我が記憶!HEY!SEY!あ、今何かキタこの辺まですごいロックな歌詞が「ふべらっ」

ずぞぞぞざざ、と廊下をスライディング。……の前のめりバージョン。何でここで転んじゃうんだ私。あ、何コレ鼻血?


「卿の所為で鼻血でた」
「見物だな」
「しかもすげーよこれ片方じゃなくてまさかのダブルブラッドノウズ」
「煩い黙れ」
「酷い!愛しのなまえちゃんが鮮血に染まりゆくというのにそれは無いんじゃないの!」
「鮮血がお好みか」
「どうもすいませんでした!」

床に座り鼻血をだらだら流している可愛そうな私を、ヴォルデモートさんはは仁王立ちの状態で見下ろしている。かなり激おこのご様子。


「お前は俺様の大切なものを傷付けた、解るか……なまえよ」
「なまえじゃないダブルブラッドです」
「死ねダブルブラッド」

辛辣な言葉を発したものの、ヴォルデモートさんは杖をひと振りして私の鼻血を止めてくれた。魔法って凄い、ってハリーの呟きをこんな所で深く共感したくはなかったなぁ。


「今月に入って貴様の壊したものの総額が幾らか教えてやろうか」
「そんな大袈裟な。蛙チョコ3個分くらいでしょ」
「別荘が買える」
「蛙?」
「購入だ間抜け!」

私の貧相な(あ、自分で言っちゃった)脳みそをもってしても海外で言うところの別荘が、日本のそれとは比にならない位のお値段だということは理解できる。


「なまえちゃんお口あんぐりです」
「破壊神が」
「レダクトの天才と呼んでください」
「そこでだ。ミスブラッド……貴様には俺様の手伝いをしてもらう」
「こ……殺しは嫌ですから。まあゴキブリまでは可」
「誰が頼むか阿呆が」

ヴォルデモートさんは私の襟首をがしっと掴んで廊下を歩き出した。卿の部屋が意外と近かったのは、私と彼が屋敷を軽く一周走ったからだろう。意外と体力あるな卿のくせに。




「………うげえええええ」
「まだ何も言っておらんだろう」
「デスク上見りゃ分かります」

山が如く積み上げられたペーパーズ。まさか書類仕事をやる日が来ようとは……こんなのには向き不向きがあるんですって、そんなの卿が一番知ってるじゃん。これやるくらいなら庭小人とサンバ踊ってたほうがマシだ。


「お前の方には重要でないものを回してあるから安心しろ」
「重要でないもの……?」
「失敗しても最悪1ヶ月のおやつ抜きで済む程度だ」
「鬼!」
「こちらは、ひとつのミスが死に繋がるようなものばかりだ」

ヴォルデモートさんは自分のデスク上を指差して言った。私は咄嗟に言葉が出ず押し黙る。

「まあ死ぬのは俺様以外の誰かだろうが」
「卿じゃないんかーい!」
「ああ……下っ端の死喰い人か、相手側か、もしくはマグルか。まあ、後ろの二つなら逆に歓迎だがな」
「サタンここに際まれり」


目の前に置かれた書類には、思わず顔を背けたくなるような量の文字がびっしり……あれ。

「ねえ、ヴォルデモートさん」
「何だ」
「私……天才になったっぽい」
「それはないな」
「理由も聞かずに!!せめて何でそう思うんだいって聞いてください」
「ナンデダイ」
「クソ程興味なさそうだけどまあいいや!あのね!私英語読めるようになったんですよ!ここに来る前は、英語のテストで6点取ったことのある強者たったのに!」
「自慢するな、脳みそを洗い流せ」
「脳みそを!?」
「翻訳魔法だ」

ヴォルデモートさんの話だと、どうやら私がこちらの世界に来た時、ヴォルデモートさんが日本語しか喋れない私に翻訳魔法とやらをかけてくれたらしい。おかげで読める喋れる聞き取れる!

「そういえば私ずっと英語しゃべってたわ」
「間抜け」
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