「貴様にできるわけがない」
「フン、私のことなめてっと痛い目見ますよ」
「では……見せてみろ」

なまえは新品の杖を振りかざしてにんまりと笑う。

「Imperio……、Crucio………――――Avada Kedavra!!」

ヴォルデモートは緑の閃光によってぐったり力の失ったそれを冷たく見る。只の屍となったそれは肢体を投げ出して冷たい大理石に横たわっている。

「見事に、許されざる呪文を制覇したようだな」
「……うん」
「どうした。浮かない顔だな」

なまえは何か言いたげにヴォルデモートを見上げ、躊躇って、最後は切なげに眉を寄せた。
「……」
こんな時、ヴォルデモートは彼女がまだ、闇に染まりきれない心を持った少女であることを認識するのだ。(離してやる気は、毛頭無い)
彼女の口から、震えた息が漏れるのをヴォルデモートはじっと見つめた。


「………私、怖くて。ねえヴォルデモートさん……ひとつだけ、お願いしても良いですか…?」
「…言ってみろ」
すうと息を吸い込んでなまえは言葉を吐きだした。

「今度この部屋にこのサイズの巨大蜘蛛が出たらよろしクルーシオ」



ヴォルデモートは全身から勢いよく力が抜けていくのを感じた。ガクッ、と一昔前のコントの如く潰れてしまわなかった事に敬意を表して欲しいくらいだ。

「お前を一瞬でもいたいけな少女だと思った私が馬鹿だった」
「許されざる呪文コンプリートする女の子がいたいけなわけないじゃないですかー!あたしは今日からクールビューティなんですぅ」
「煩い黙れ馬鹿」
「カッチーン!」

プンスカ怒りながらなまえはヴォルデモートに飛びつく。
馬鹿がドアホがと罵りながらも、ヴォルデモートがなまえを突き放すことは無いのは本人が一番よく分かっていた。
(これで、少しは認めてもらえたかな)


「ヴォルデモートさんの髪の毛ってサラサラですよねー、むかつクルーシオへぶっ」
「貴様のクルクルは中身から来てるんだろうな」
「……何か最近私に対しての暴言のバリエーション増えてきてません?」
「気のせいだろう」

ヴォルデモートはふとなまえの髪に手を伸ばした。
ふわふわとした金髪は、こいつの青みがかった藍色の瞳に良く映える。

「……ちょ、いた!ヴォルデモートさん痛いですっ、わしゃわしゃ…いやもっしゃもっしゃしすぎ!」
「押さえつけてもぺたんこにならんな」
「闇の帝王がぺたんことか何かかわい、あ、嘘でした凛々しいです!すいません可愛いとかほざいちゃって!」
「次にふざけた事をぬかしたら命は無いと思え」
「ふ、ふざけた事って…どこらへんまでオッケーラインだか解りません!」
「その少ない脳みそで良く考えるんだな」

なまえが突然現れた"あの日"を境に騒々しくなった屋敷を不服に思うものもいるだろう。だが、特別嫌だと思うものもいないのは、屋敷の主であるヴォルデモートがなまえを受け入れているからに他ならない。


自分を見て恐怖するもの。
媚びて力を持とうとするもの。
討伐せんと無為に力を振りかざすもの。

そのどれにも当てはまらず、真っ直ぐ、自分の目を見返してくるものになど、久しく逢わなかった。

「……来い、なまえ」
「え。どこ行くんすか」
「ノクターン横丁だ」
「外食ですか!やっほーい!」
飛び跳ねて喜ぶその姿に僅かに口元を上ずらせて、ヴォルデモートはコートを羽織った。

機嫌が良いので
(こんな時くらいかまってやろう)
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