「で、その顔面の落書きは何だ」
「…………あ…悪質な悪戯です」
「今すぐ落とせ」

さっき恭弥に刺青を怒られたと思ったら今度は卿に顔の落書きを怒られた。どっちも不本意だったのに……。これがほんとの最“凶”〜なんつって、わははは。

「スコージファイ(清めよ)」
「はぶぶぶふ!!!ちょ、はぶぶ!ヴォルデモートさっ、おぶ、顔面スコージファイはあかん!溺れるっ」

どこからともなく溢れ出した泡で溺れそうになりながら恭弥に書かれた文字はようやく消された。
お、おそろしや……。大人ヴォルデモートさん。

コンコン

「あ、誰か来たみたい」
「……取り込み中だ。後にしろ」

扉に向かって言うヴォルデモートさん。
「しかし我が君、今しがた森で」
この声は!!

「ルッシウスーーーン!!おひさっ!」

バターンと扉を開け放ってみれば、ノックの体勢のまま固まるルシウスの姿。その相貌が零れ落ちんばかりに開かれたかと思ったら、彼は鬼の形相で私の両頬を引っ張った。

「あ、な、たと、いう人は……っっ」
「ひだいだいひだい!!ちょ、えええっ!!ほっべもげるぉ!!?」
「どれだけ我が君にご心配をかけたと思ってるんです、この、おたんこなすのっ、すっとこどっこいが…!!…!」
「ルシウス」

ヴォルデモートさんに呼び掛けられたルシウスははっとした様子で私の頬から手を離し、慌てて冷静を取り繕った。

「も、申し訳ございません、我が君」
「いや私のほっぺにごめんねでしょ?」
「あなた様のほっぺに謝る義理はない。むしろまだつねり足りないくらいです」

私は両頬を押さえて後ずさる。
そしてようやく、彼の隣に若い女性が立っていることに気が付いた。というか、え!

「ど、………どちゃくそ美人……!!」
「品のない言葉を使うな」
「すんませ……でも、」

こ、この女性はもしや。

「死喰い人のひとり、ロドルファス・レストレンジの妻、ベラトリックスだ」

ヴォルデモートさんの紹介にあわせてスカートの裾を持ち上げた彼女。粛々とした姿勢からは想像もつかないほどぎらついた瞳を向けられて、私は激しく嫌な予感を覚えた。

や、やっぱりこの人
“彼の従者の中でもっとも危険でもっともサディスティック”!なあのひとじゃん!!

「我が君、そちらの方は」
「お前は初めてだったな、ベラ」

(………うん?)

「こいつは俺様の……」
「………」
「……所有物のひとつだ。」
「ちょっと」
「黙れ。」

さっきあんなちゅうしといたくせに所有物の一つとはこれいかに。

「とにかく、こいつが屋敷にいる間は一切の手出しは許さん。他のデスイーター共にもそう伝えろ」
「かしこまりました、我が君」
「我が君、なまえ様の部屋はどうなさいますか?」
「ここでいい」
「かしこまりました」

一礼したルシウスが再び部屋を出ていく。
去り際、私は確かに彼女から射殺さんばかりの視線を感じたわけだが、その理由はもはや明確だった。

「…………もしかしてこのお屋敷安全じゃないのでは!?」

ヴォルデモートさんは肘掛け椅子に腰かけて深く笑んだ。
「俺様の傍が安全だったことがあったか」
たしかに、である。
top