「…………え、十年ぶり?」
「そうだ」

再び翻訳魔法をかけてもらい、英語が堪能になった私はめでたく、彼いわく十年ぶりのヴォルデモートさんとの対談を果たした。

あ、余談だけど、森で再会したヴォルデモートさんは私をひっぱたいた後、わけもわからずちんぷんかんぷんなデスイーターの皆さんを置いて一人とっととお屋敷に帰ってきた。安定の自己中っぷりである。


「でも私、ヴォルデモートさんと別れたのは今朝なんですよ?杖忘れて一旦取りに返ったのがざっと10時間前です」
「………」

暖炉に火をくべながら考え始めたヴォルデモートさん。
私が安心したのは、十年後の彼の姿が例のつるっとした感じじゃなかったことだ。つまり、事件はまだ起きていない!よかった。

「……大体理解がついた」
「えっ、はや!流石ですね」
「その装置とやらは、過去と未来のお前を入れ換えるんだったな」
「はい、たしかそんな感じでした」
「つまり、十年後のお前は魔法界の、しかも俺様のすぐ傍に居た。お前があそこに現れたのだからそれは間違いない」
「ふむふむ」
「そしてこの十年、お前は魔法界のどこにも存在しなかったことから考えると、ついさっき、あちらの世界から、こちらの世界へ渡ってきたばかりなのだろう」

じゃあ十年間、私は並盛町に居続けたってこと?なんで?

「はてながいっぱいです」
「だろうな。だが、今分かるのはここまでだ」
「………それにしてもヴォルデモートさん」
「何だ」
「さっきから、どうしてそんなに怒ってるんです」

尋ねると、空気がびきりと凍った。

「……………私が怒っているのが分かるとは、この十年で少しは成長したらしい」
「や、十年もなにも、私としては一日も経ってないんですけど…………まあでも、さすがに分かります」

ソファに腰かける私の前に、ヴォルデモートさんはすっと屈み込んだ。

「なら理由も当ててみろ」

老けたとか言ったから、ではなさそうだ。
赤い目がぎらぎらとほの暗く光って私を見上げる。
こくんと、唾をのみ込んだ。

「ヴォ、」
「時間切れだ」
「えっ、…んん!!?」

ヴォルデモートさんの唇が私の唇を覆った。驚いて開いたそこにあっという間に舌がねじ込まれる。

「ん、っんん……!」

熱い熱い、口づけが、角度を変えて落とされるなか、脳味噌さえ蕩けさせるように唾液が混ざりあった。
(ヴォルデモートさんと、キスしてる…なんで)

息もできない。

思考も追い付かない。

ようやく与えられた呼吸の隙間で、わたしは目一杯酸素を取り込んだ。

「ふぁ、っ………はっぁ、…ヴォル、」
「………どれだけ、探したと思ってる…!」

ヴォルデモートさんはたまらずと言うように声を荒げた。
彼の目が刹那の激情に揺らぐのを、私は驚いて見つめる。

「生きていると分かっていても、居場所の知れないお前を、私がどれだけ探したか……!」
「……ヴォルデモート、さん」

彼は別れるとき、目的のために邁進すると言っていたのに、
だから探しに行くなら私の方だと……そう思っていたんだ。なのに、

(私のこと、探してくれてたんだ)


胸がじんわりと熱くなって、私はヴォルデモートさんの首に腕を回して抱きついた。
「ごめん、なさい」
私にとってのたった一日は、彼にとっての十年だった。
寂しさの度合いなど比べられるはずもないけれど、


「ただいま、ヴォルデモートさん!」
「………」

笑顔で告げると、ヴォルデモートさんの顔が僅かに綻んだ。……そんな気がした。
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