どすんっと尻に衝撃を受けて、私が着地したのは鬱蒼とした森の中。さっきまで一緒に居た恭弥の姿はなく、完全なる一人ぼっちであった。

「…………お化け出そう」


とりあえず杖でも装備しとくか、とローブを漁ろうとしたが、驚くことなかれ。私は今ローブを着ていない。並盛の制服に着替えていたからだ。
さらに驚くことなかれ。
杖とその他が押し込まれていた鞄が、どこにも見当たらないのである。


「………恭弥ぁぁぁああ!!!」

断腸の思いで恭弥の名前を叫ぶ。
霧に覆われた森の中にどこまでも吸い込まれていきそうな私の呼び声に、私はどんどん心細くなっていった。

「そ、そうだ、とりあえず姿現しで」
「ステュービファイ!!!」
「ファイッ!?!?!?」

突然、真横を閃光が突き抜けた。
てか、えっ!?まっ魔法!?!?何で!?ここって平和な非魔法族ワールドじゃないの!?
滝のように汗を流しながら振り返ると、遠くから見覚えのある仮面の集団が駆け寄ってきていた。

「デ、デスイーター……何でこんなとこに」

私は咄嗟に両手を上げて降参のポーズを取った。
デスイーターなら顔見知りの誰かしらが攻撃を止めるよう言ってくれるかもしれない!という希望を持っていたからだ。
しかし、私を取り囲む彼らは、私に向けた杖を下ろそうとはしなかった。それどころじゃない……

「Which person are you? When I don't answer, I kill!」
「えっちょ、あれ……何、」
「Answer early!」

英語が聞き取れない……!!

えー!もうなんだこれ!何だこれ!!
と泣きそうになりながら、「ま、まいねーむいず、なまえ!あいむ、ゆあろーど、ふれんど!!」と、もはやひらがな表記の英語を連ねる。
彼らは当然頭にはてなを浮かべていたわけだが、ロード、というワードはしっかり拾ったらしくこぞって激昂し始めた。

(あ、もうだめだこれ……殺される)

ぼんやりと覚悟を決めたとき、彼らの中の一人がびたりと動きを止めた。
しばらく私を凝視し、ノー!ストップ!ノー!ノー!と声を上げ始めた。
彼は集団の中から躍り出ると、私に尋ねた。

「You, really, "なまえ"?」
「……え?」

もどかしいと言わんばかりに、その人は勢いよくマスクを取り払った。
大人びてはいたが、私もその顔には見覚えがあった。

「せ、っセブ、ーーーーうぁ!!」

ずくん!と鋭い痛みと共に左の手首が熱を持つ。思わず膝をついた私の側で、死喰い人達が畏れるように道を開け始めたのもその時だった。

「What did you have」

ああ、この声には聞き覚えがある。

もうちくりとも痛まない左腕を押さえながら立ち上がった私は、深い闇色のローブをまとったその人が目の前に来るのを待った。

ざり

視線が絡む。

「………………」

細められた深紅の瞳が、ややして大きく見開かれていった。
(ああ……やっぱり)
私は彼の顔を見て確信した。


ここは、十年後の世界だ。


「ぷふ。てかちょっと老けたね、ヴォルデモートさ」スパン!!はい、ツッコミのキレは増し増しでしたとさ。
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