結論から言わせてもらうと、私は見事落下中の少年をキャッチすることができた。拍手大喝采を受けながら地面に無事足を付けた所で、私と少年を覆う影。それはどんどん巨大化していく。
「嬢チャン、危ねェ!!」
「駄目だ!!間に合わねェッ」

「?」

私は顔を上に向け、そして悟る。あ…コレあたし死んだな。先程の鉄骨がぐらりと揺れて真っ逆さまに落ちてきているのだ。

わたしの最期はパスタの食べ過ぎでと心に決めてたのに!こんなヒーローみたいなことをしておいて助けた男の子と一緒にオサラバとか笑えない。

「少年、あんまさ、痛くないといーよね」

私は少年の頭を抱きかかえて地面にうずくまった。
助かるかどうか解からないけどとりあえず悔しいから、男の子の未来を選ぼうかな。神様、こんな素敵なわたしの来世はどうかピンクのプードルでお願いします。

人生最後のお願いを胸に、私はギュッと目を閉じた。




「覚えとけ。俺は、やられたら1000倍返しがモットーだ」

「…は?」

「テメェ俺にあんなことしといて、只で済むとは思ってねェだろうな」

おかしいな、もうとっくに死んでる筈なのに。この声は間違いなくあの人のものだ。という事はあのひと悪魔じゃなくて…死神!?

「誰が死神だブッ殺すぞ!」

「ぶっ殺すって、私もう死んで………。ない…」

え。死んでない……生きてる!!

目の前で翻るコート。突き上げられた逞しい右腕の少し手前で、鉄骨は不自然に動きを止めていた。何故…!どうして!ミラクル!

「リペル!!!」

ゴウンと弾き飛ばされた鉄骨は例の作りかけの建物の突き刺さり、建物もろとも轟音を響かせながら崩れ去っていった。
腕力だとしたらとんでもない…。ムキムキだなとは思ってたけど。
ぼけっと放心する私をよそに、キッドは小さく呟いた。

「魔女、か」

「え?」

「テメェの話、信じてやってもいい」

さっきまで拳銃を私の眉間に突き付けていた悪党は、悪党らしい、人を馬鹿にした笑みをこちらに向けて言い放った。

「俺の船に乗れ。戦力として使ってやるよ」

「え。いいです」

ギャラリーに混ざっていたらしいキッドの仲間達から「空気読め!」と野次が飛ぶ。逆にそっちが読め!
船ってことは旅人か何かでしょ?冗談じゃない!

「あ?」

「や、だって…それって仲間になって旅するって事でしょ?」

「違ェ。手下にして扱き使うって意味だ」

「更に嫌だ!だから、私帰らなきゃいけないんだって!」

「そういやテメェ迷子だったな」

「違うもん!ただ帰り方が分からなくなっちゃっただけで…ただの哀れなノウウェアガール、」

「限りなく迷子じゃねェか!…グダグダ煩ェな!黙って俺の船に乗りやがれ!」

横暴な奴!まるで王様だ!とかなんとか思っていると、私に抱えられていた男の子が泣きながら暴れ出した。あ…忘れてた。

「どうしたどうした!」

「ママーぁぁ!!」

そうかそうか。怖かったもんね!私がひと撫ですると少年は、涙声で「おねえちゃん、ありがとう!」と言った。走り去っていく彼を目で追いながら、心中に湧き起こる達成感が否めない。つーか私飛べた!良かった!

「あんなガキでも礼儀は心得てんだぜ?」

「えーと…だから?」

「テメェも恩返せっつってんだ」

えー何この人すごい傲慢!

「おい…!アイツよく見たら」
「ああ…サウスブルーのユースタス・キッドだ!」
「億越えの賞金首…!」
「嬢ちゃん逃げろ、その海賊はやべェ!」

ギャラリーから上がる声に、私は首をかしげる。

「海賊?誰が?」

「俺だ」

「………ああ。すごい納得」

「腹の立つ野郎だぜ。やっぱ殺しとくか」

「パーレイ!!」

海賊と言ったらアレでしょカリビアンでしょ。ジャック・スパロウよろしく鼻高々に言い放てば「そうか」と、肩を組まれた。え。恐る恐る顔を上げて、悪巧み顔の彼を見上げる。

「俺達はカリビアンパイレーツじゃねェが…"話し合いは船上で"てなァ、セオリーだよな」

「……と、取り消しとか」

「させると思うか?」

「あ、私お腹いた…」

「トイレなら貸すぜ」

こうして私は、たくさんのギャラリーに見守られながらキッドの海賊船に向かう羽目になったのであった。
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