「―――で?さっきのは何だ。テメェも能力者か?簡潔に説明できなかったり嘘吐いたりしやがったら容赦無く消すから、そのつもりで口を開け」

うおーん!なぜこうなった!

知りたい奴はほら、回想をどうぞ。





「はぁ、ぜぇ…は」

あの男の人の仲間と思しき二人組から死に物狂いで逃げきった私は疲れ果てて路地裏にしゃがみこんだ。
もー無理!
こんなに走ったのはリドルの日記を1ページ破っちゃった時以来だ。
「ぐあーもうだめだー!」
冷たい石畳の地面に両腕を投げ出す。遠くで子供たちのはしゃぎ声が聞こえた。建物に隔たれた空はとても狭い。なんかナイーブになってきた。

「……帰りたい」

「ハッ、テメェ迷子か」

「ちがいますー、何さみんなして人を迷子呼ばわり……レッツ、逃亡」

「させるかよ」

バッと上半身を起こしたところで眉間に突き付けられた拳銃。わー実物初めて見たーってテンションでいくには相手が怖すぎた。
そして冒頭に戻る。回想終わり。

「さっさと答えろ愚図」

「グズとか初めて言われた!」カチャ「あ、言います言います!」

私は、もうこなくそーどうにでもなりやがれーな気持ちで全てをぶっちゃけた。
「簡潔に」というご要望には添えなかったけど、意外にも、赤髪の悪魔みたいな例の男は私の話を終わるまできちんと聞いてくれた。

「つまりさっきのは魔法で、テメェは魔法使いだと」

「イエス!何だ良かった物分りがいい人で」ドン!「………ええええ!!!何で撃ったん!?」
視界の端でパラパラと髪の毛が数本舞う。
直ぐ傍の銃口からは細長い煙がたゆたっている。

「実弾だって教えてやろうと思ってな。テメェ、俺の話聞いてたか」

「そ、そんな!簡潔に話せなかったからって」

「そっちじゃねェよ。……言ったはずだ。嘘を吐いたら殺すと」

「…」

再度額に突き付けられた拳銃。

「次はねェぞ」

どうしよう。
信じて貰えてない。

やっぱここ、魔法界じゃないんだ……―――!!


混乱した頭で視線をそこかしこに動かせば、ふと建物の壁に張り付けられた手配書達が目に留まる。「…え。」目の前にある顔と、手配書を交互に何度も見つめる。

WANTED
DEAD OR ALIVE
EUSTASS "CAPTAIN" KID
315,000,000

「ユースタス……キャプテン、…キッド」

放心したように呟く。
目の前の男はさも満足そうに、目を細めて首をかしげた。

「初耳か?……なら、教えてやる。


 俺はいずれこのグランドラインを支配する。ワンピースを手にし、海賊王になる男だ…―――!」


ユースタス・キャプテン・キッド


「か、」
言葉の意味は8割程理解できなかったが、とてつもなく大きな野望を掲げていそうな事は理解できた私。
正直、なんか鳥肌立った。

「か、かっけえ…!」
「…あ?」

私が思わずそう漏らした時だ。表の通りがザワザワと急に騒がしくなった。
「事故だー!!」「なんであんな工事現場に子供が」「急げー!」

「?」
彼の意識が、一瞬だけそちらに向いた。

「今だ!ナマエフルパワーボディブロー!そいやっ」
「ッおい、砂!砂投げんな!」
ガペペと砂を吐き出しているその人を突き飛ばして立ち上がる。散らばった私物を掻き集め走り出した。ブッコロス!とか聞こえた。もう二度と捕まんないようにしよう、ウン。
通りに出ればそこは騒動の中心だった。野次馬が群がり、皆一様に顔を上に向けている。それに習って私も顔を上げれば、一瞬で背筋が凍った。

「…!」

工事中らしき建物から真横に突き出した鉄骨。何らかの衝撃で横たわってしまったらしいそれの先の方に、小さな男の子が必死でしがみ付いているのだ。

「救助はまだか!?」

「早くしねェと落ちちまう!!」

「えええええ!何このパターン!」

ガシッ。
「俺はテメェを有無も言わさず殺す事に決めた」

「ギャー!もう追いつかれた!青筋たってっし!」

「死ね」

「す、ストップ!タンマ!」

襟首を掴まれたまま上を見る。丁度、風に煽られた男の子の下半身が、鉄骨から滑り落ちたところだった。

「―――ッっ…み、見せてやんよ!!」

「あァ?」

「私が魔女だって証拠!」

男、キッドの手を振り払い、カフェの扉の脇に都合よく立てかかっていた箒を引っ掴む。
「、なっ…!」

長れる動作で箒に跨り 勢いよく地面を蹴れば、私の体はスピードをつけて上へ突き進んだ。今なら逃げられる、のに、
「間に合え…!!」

私の頭の中は落下していく少年を受け止める事で一杯だった。
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